ん
□其れは酷く不透明な
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昔から、変だった。
見える話せる触れる、その事が異常なんだと気付いたのは小5の秋頃だっただろうか。それとほぼ同時に、周囲から異質の目で見られるのが面倒だとも思い始めたから、中学に入ってからは見えても気にしないようにした。
視界の隅にちらつく半透明の人間が全く気にならなかったわけでは無いが、関わったら関わったで面倒な気がしていたから無視した。そうこうしているうちにも時は過ぎていき、その半透明な奴らが見えなくなる事は無いまま、俺は高校三年生になっていた。
♂♀
「じゃあね、臨也」
「また明日な」
「うん、また明日ねー」
いつもの分かれ道で友人達と別れた俺は、眩しい橙色に染まった道を歩く。何処からかカレーの匂いが漂ってきて、俺の腹が空腹だと控えめに主張した。
けれど帰っても灯りがついていない自分の家を思い出し、何だか帰る気が失せた俺は無意識のうちに公園へと向かっていた。
両親は俺が中学二年の時に離婚し、双子の妹達は母親に連れていかれた。父親に着いていく気が無かった俺は高校入学を理由に家を出て、一人暮らしをしている。
(…お腹空いたなあ)
でも帰ったら自分で作らなければならない、何か買いに行くにしてもコンビニまで距離がある。それすら億劫で、人気の無い公園のベンチに座って夕焼け空を仰ぎ見ていると、不意に後ろから肩を叩かれて思わず振り向いた。
「何してんだ?」
ライオンの鬣に似た金色の髪と、深く落ち着いた鳶色の瞳。腹の底に緩やかに響く低い声に何故か鼓動が速まるのを感じながら、俺は無意識に口を開いた。
「…家に帰るのが面倒で」
「ふーん、腹減らねぇの?」
「減ったけど、帰って作るの面倒だから」
「へえ、料理出来んのか。スゲェな」
淡々と会話を続けてくる見知らぬ男。気色悪いとか、普通の奴ならそう思うんだろうな。俺が女だったら変質者かと思って逃げ出してるかもしれない。
でも俺は逃げなかった。
逃げる必要なんてなかった。
「…アンタさ、」
「ん?」
「人間じゃないだろ」
包み隠さずストレートにそう言ってやると、男は半透明の指で自分の頬を軽く掻きながら「…まあな」と苦笑した。
(…何なんだ、この暢気な幽霊)
END.
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前ジャンルで
公開しそこねてた気がするネタ。
このあと臨也が精気を吸われながらも傍に居たがったり、それを察した静雄が離れようとしたりとシリアスな流れになるんじゃないでしょうか。