短編集

□下酷城に訪れた使者
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因幡砂漠・下酷城。


因幡砂漠の端の方に位置している
この城の高い天井は砂にまみれている。
障子やふすまはすべて開け放しだ。
ひとつだけふすまが閉まっている。
とある一角の部屋の中では男が一人、眠っていた。
髪は黒の長髪で、座りながら眠っている。
しかも腰には、鞘とつばが黒い刀を差したままだ。

それこそが四季咲記紀が作りし、
完成形変体刀『斬刀・鈍』である。

そして、下酷城・城主で、
『斬刀・鈍』所有者である
宇練銀閣は穏やかに眠っていた。

城内に、訪問者があることを知らずに。




十代くらいの若い女性が
長い長い因幡砂漠を乗り越え、
下酷城にやってきた。
たどり着いた時は
もう足が動かないほどだった。

彼女は着物の袖とすそを短く切り、
動きやすいようにしていた。

「よ……ようやく……たどり着いた…。
 し………死ぬかと思った………」

搾り出すように言葉を出し、
少し休憩のつもりで砂上に座り込む。
そして、自分がここまで
来た目的を思い出す。


彼女は美作からの遣いの者だ。
自分の父から、
因幡砂漠・下剋城に居座り続けている
宇練銀閣に退場を勧告するためである。

なぜ、父はこんな危険な仕事を
自分に任せたのかが、全く分からないが、
彼女は彼の所有する『斬刀・鈍』が
怖いのだろうと思っている。

何でも斬れる刀という噂なので、
自分が真っ二つにされては困る。
だから、身代わりとして
自分を遣わせたのだろうと思う。

「斬刀だか、残飯だか知らないけれど、
 ここから生きて帰ってみせるわ……!!」

その決意の元、
ここまで足を運んできたわけである。

「よし!!行くか!」

彼女は拳を天についてから、
元気よく中へ侵入した。

       
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