東の雷神

□雷神との出会い。
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小さな子供が大人に連れられて森の奥までやってきた。
こんな森に何の用で入ってきたのだというのか?森に住む動物たちが騒いでいる。

小さな子供、否、伊達藤次郎政宗は今日元服を向かえ梵天丸から政宗へと名前を変えた記念すべき日でもある。
そんな日に大人、家臣や父親に連れられて一体どういうことなのだろうか。

政宗は不安で一杯の筈なのにそんな素振り一つも見せない。流石だ。
10歳とは思えない堂々たる風貌。誰もがその姿に安心した。伊達の当主の器だ。
だが、自分たちだけでは決められない。今日のこの儀式で政宗様が当主になれるかどうかが決まる。
誰もが緊張し、口を開かなかった。

森の中を歩いて歩いてたどり着いたのは一つの洞穴だ。
大きく、中は広々としている。洞穴の入り口は注連縄でふさがれていた。
注連縄とは、神の世界、常世とこの現実世界、現世を隔てるものである。
注連縄から向こう側が常世。こちら側が現世と言われている。

政宗以外の大人たちは決心したように注連縄の中に入っていった。政宗も父に手を引かれ入った。

中は外側から見るよりも広く、薄暗かった。松明で洞穴を照らすと、目の前には何かの儀式のような道具が置かれていた。

南蛮の物と思われる物から、日本でよく使われる着物から何まで。
そしてその中心にはなんとも煌びやかな椅子が置かれている。
どこか怪しい雰囲気が流れている。しかし、誰も何も言わない。

その時一人の神主と思われる老人が言葉を放った。

「雷神様。どうかそのお姿をわれらの前に現してください」

その言葉を引き金に皆手を合わせて頭を下げた。
政宗もここでの行動は父に一通り教えてもらっていた。
大人達に後れを取らないように一生懸命ついて行く。

そして、政宗だけが頭を上げた。
父の説明があったのはここまでだ。この次にする事は自分で考えろと言われた。
しかし、一体何をすればいいと言うのだ。
もう、怖くて、不安で一杯一杯の政宗はもう泣き出してしまいたかった。

それでも涙を流さなかったのは自分のプライドにかけてだ。

誰も身動き一つしないこの中で自分は何をすべきなのだろう。
頭を使って考えていると、どこからともなくふわりと、一人の女の人が現れた。
金色の髪をして色白の女。
何故かその人は黒い着物を身に纏っていた。そして、中心の椅子に腰掛ける。

政宗はその女性を暫し呆然と見ていた。すると女の人は自分を見ている政宗を見て少し驚いた表情をした。

「おかしいな、この子供私が見えているのかね?」

足を組み、顎を手に乗せ考える素振りを見せる。
政宗の周り、そして父を見て、「あっ」っと言った。

「ああ、お前伊達の人間だね」


一人納得してその女はにこりと政宗に微笑んだ。

「誰だお前………」

やっとの思いで発したその言葉は小さく聞き取れるか聞き取れないかというほどだった。
しかし、皆はそれを聞き取っていた。一斉に頭を上げ自分を見つめる。

「雷神様をお見えになった!」

「伊達の次期当主だ!!」

「これで我等も一安心だ。」

皆がわっとそれぞれに言うもんだからこれ位しか聞き取れなかった。
未だに状況を掴めない我が子を見て輝宗は説明してくれた。

「今お前の前にいるのは雷神様だ。伊達家は代々雷神様を見た者を伊達の次期当主としてきた。雷神様を見た以上伊達の当主はお前しかいない」と。

もう、頭の中が一杯で、だけど、自分が伊達家を継ぐということが分かった。
だが、雷神様と言ってもよく分からなかった。

「おい、輝宗」

女の人、雷神様が父に向かっていった。

「はい、雷神様」

父も雷神様が見えるみたいだ。だが、父以外の人は見えていない様だ。

「久しいな」

「そうで御座いますね」

微笑みながら何とも懐かしそうに二人は言った。

「お前のガキか」

「はい。」

「お前にそっくりだ」


そう言って雷神様が自分のところに来た。優しく頭を撫でられる。
不思議と恥ずかしいとは思わなかった。なんと心地よいのだろうと思ったくらいだ。

目を細めて自分を見る雷神様はまるで母親のような顔をしていた。
そして自分の頭を撫でながら雷神様が「ほぉう」「そうかそうか」等と呟いている。
暫く経って雷神様は政宗の頭から手を離して父を見た。

「こいつは、相当複雑な人生を歩んでいるな」

ぽつり、そう言った。父は苦笑いをするしかなかった。そして首を縦に振る。

「だが、こいつの人生は面白いものになりそうだ」

そう言うと雷神様は優しく微笑んだ。

「私はこいつに付いて行こうと思う。」

その一言に父は驚いた。

「なんと、それでは政宗の側に居るというのですか!?」

「そう言う事だ」


父と雷神様と言われている女の人の会話はそんな感じだったと思う。



「よろしくな、伊達政宗」


そう言って雷神様は俺の手を引いて洞穴を出た。

これが、雷神との最初の出会い。
伊達藤次郎政宗となった元服の日の午後の出来事である。











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