※現パロ、高1





「もしもし、三郎次?明日のお昼なんだけど、予定ないって言ってたよね?僕も左近も久作も外せない用事があってさ。こんなこと頼めるの、三郎次しかいないんだ。かといって、先輩たちだけに任せるのも申し訳ないでしょ?だから、お願い。買い出し係になってくれないかな」

気持ちよく寝てたところに着信音。苛立ち気味に通話ボタンを押せば、なんとも呑気な声が通話口から聞こえてきた。声は呑気だが、言ってる内容は非常にめんどくさい。買い出し係になってくれ?誰がなるか。

「いま何時だと思ってんだよ。真夜中だぞ」
「もしかして、寝てた?」
「寝てた」
「ごめんね。ホントは僕が買い出しだったんだけどさ、急に体育委員会の集まりが決まっちゃったんだ。でも、先輩だけに買い物を頼むのも申し訳ないし……駄目かなあ?」

弱々しい声。電話の向こうにいる四郎兵衛の表情が容易に想像できる。それでも、やっぱり気乗りしない。買い出しの原因である明日の焼肉にすら行きたくないのに、誰が好きこのんで買い出しになんか行くか。面倒くさい。馬鹿ばかしい。

「ほんとに俺しかいねーのかよ」
「三郎次しかいないよ」
「何時?どこ?」
「四時に、ニンジュツスーパーの入口前」
「………何買うのか、メール送れよ」
「え、引き受けてくれるの!?」
「今回だけだぞ!メール忘れたら、行かないからな」
「ありがとう!あとね、先輩たちにも買い出し係の人がいて、その人と一緒に行ってもらうことになるんだけど、いいかなあ?」
「げ、なにそれ」

気乗りしないテンションがさらに下がった。一コ上のアイツらと焼肉パーティーってだけで嫌すぎるのに、その中の一人と一緒に買い出し?二人で?想像するだけで寒気がする。

「そういうことは最初に言え」
「言ったら引き受けてくれないと思ったんだよ」
「あー……引き受けてないな」
「でしょ」
「んで、相手だれ?迷子だけは勘弁だぞ」

学校名物でもある方向音痴二人組。アイツらのどっちかと一緒に買い出しなんて、考えるまでもなくゾッとする。

「体育委員会の集まりが入ったって言ったでしょ。次屋先輩は委員会だし、神崎先輩も用事があるみたいだから違うよ」
「心の底から安心した。んじゃ、誰?浦風先輩とか?」
「浦風先輩は焼肉の予習で忙しいみたい。真面目だよねえ」
「……へえ。学生の鏡だな」

関わりたくない人物トップ10内に浦風先輩の名前を記録し、今後とも近づかないようにしようと心に決める。

「んで?俺は誰と一緒に行けばいーんすか、時友さん」

こみあげる欠伸を噛みころしながら体の向きを変える。いい加減眠いし、電話内容は楽しくないし、ちゃっちゃと寝させろ、ばかシロ。

「えっと、怒らないでね?」
「はあ?何、急に」

今にも閉じてしまいそうな瞼と格闘しながら、少しでも眠気がマシになるかと思い、左にゴロンと転がってみる。次は右、もう一回左。ごろごろ、ごろごろ。

「三郎次と一緒に行く人は富松先輩だよ」

どすん、と鈍い音が部屋に響いた。同時に、痛みが体を襲う。

「え、今すごい音しなかった!?」
「っ、さあ?俺は聞こえなかったけど」
「でも、そっちから聞こえたよ?」
「空耳じゃね?夜も遅いし、聞こえるはずのない音が聞こえたとか。いやー、こわいな!ほら、四郎兵衛も早く寝た方がいいぞ」
「……すごく嘘っぽいね」
「はい切るぞー」
「あ、ちょっと待って!」
「なんだよ」
「富松先輩と、仲良くしてね」
「え、なに?聞こえませーん」
「もう。喧嘩しないようにするんだよ?」
「あー……じゃ、切るから」
「うん、おやすみ」


電話を切り、ベッドから転げ落ちた体をなんとか起こす。眠気醒ましに転がるなんて、我ながらアホらしいことをしたもんだ。完全に、寝惚けてた。ベッドから落ちたのも、そのせいだろう。そうに決まってる。別に、アイツの名前を聞いて、動揺したわけじゃない。


喧嘩しちゃダメだよ、なんて、そんなことわかってる。
仲良くね、なんて、それが出来るならとっくにやってるよ。


ベッドにどさりと体を預け、目をつぶる。早く寝よう。寝坊でもしたら大変だ。四時には、富松と買い出しなんだから。富松と、買い出し。二人で、買い物。



「…………寝られない」


眠気は、すっかり退いていた。さっきの睡魔はどこへやら、ちっとも眠たくない。富松と買い物なんて、楽しみで寝られるわけないっつの。


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