※現パロで中学2年





クリスマスが近づく頃にテレビで何度もやっている映画だということは知っていた。暇だし何もすることないしDVDでも見る?とごそごそあさったラックの脇に、ひっそり置いてあった古いビデオ。昔、お母さんが録画しておいてくれたものだと思うけど一度も見たことないそれには結構な埃が積もっている。タイトルは知ってる。有名だし、聞いたことある。ファミリー向けの、子どもが主役の洋画だ。内容は知らない。興味なかったから。
アニメ以外の映画には見向きもしなかった子ども時代。ロボットとかモンスターとかバトル物とか、そういうアニメが大好きで、実写物は苦手だった。実写は現実的なものばかりでワクワクする要素が皆無だと思っていた。僕は楽しいことが好きだ。テレビや映画にはワクワク要素を求めてる。物語にまで現実的要素を見たくないじゃないか。
まあ、今の僕は実写にだって楽しい話がたくさんあることを知っているし、現実にだってワクワク要素があることを知っている。自分で作りだす方法も。

「三ちゃん、なんかあったー?」

後ろから兵ちゃんがひょいと覗きこんでくる。僕の手にあるビデオを見るなり、うわと驚いたような声を出した。

「ビデオだ。久しぶりにビデオ見た」
「最近はHDDやDVDだもんね」
「これ、なんのビデオ?」
「んー、洋画?ほらこれ」

ラベルを見せると、あーなんか聞いたことあると兵ちゃんが言う。どうやら兵ちゃんも見たことないらしい。

「内容知ってる?」
「知らない。見たことないし。でも有名だよね。タイトルは知ってる」
「ぼくも一緒」
「じゃあ丁度いいじゃん。これにしようよ」
「そだね。じゃあ入れるよー、兵ちゃん電気消して」
「はいよー」

パチ、と音がして電気が消える。夜中なこともあり部屋は真っ暗。そんな中でテレビだけがこうこうと光っていて本当に映画館みたい。

「あ、このCM懐かし。すごい覚えてるこの歌」
「CMって昔のビデオ見返す時の醍醐味だよねー」
「このCMの歌、小二の時流行らなかったっけ?」
「流行った流行った。よく口ずさんでた。団蔵なんかしょっちゅう歌ってたよ」
「うわ思い出した。そういやアイツ授業中まで歌いだして先生に怒られてたな」
「あはは、そういえばそんなことあったね」
「ほんと馬鹿だよなあ、昔から」

そんなこと話してるうちにCMは終わり、映画のオープニングが流れ出した。どちらからともなく会話は止まって、真っ暗の部屋にテレビの音だけが賑やかに響く。





結論から言うと、ファミリー向け映画というだけあって楽しい映画だった。子どもが大人相手にいろんな仕掛けで家を守るってのが面白いし、所々に笑う場面もあって楽しい。
まあ、ぼくと兵ちゃんは一切笑わなかったけど。

ベッドの上であぐらをかく兵ちゃん。ベッドの縁にもたれて体育座りのぼく。テレビの画面は真っ青だ。この先録画はされていません。


「ぬるい」

先に声を出したのは兵ちゃんだ。静かに、でも深く。

「仕掛けがぬるいね。ぬるま湯。むしろ水」

だよね。さすが兵ちゃん、思うことは同じだ。

「やっぱり、兵ちゃんもそう思う?」
「当たり前。僕だったらもっと強烈なの仕掛けるね。落として吹っ飛ばしてまた落とす」
「さっすが兵ちゃん。考えることがキマってる」
「三ちゃんだって似たようなこと考えてたくせに」
「あは、バレてた?」
「当然でしょ。何年一緒にいると思ってんの」
「んー、八年?」
「当たり。僕ら半分以上は一緒にいてんだから」
「そだねー、大好きだよ兵ちゃん」
「僕は愛してるよ三ちゃん」
「あはは、何それ」

後ろを向くと、案の定兵ちゃんは笑っていた。ぼくはベッドの上に飛び乗り、兵ちゃんの隣に腰をおろす。

「ね、兵ちゃん。丁度もうすぐクリスマスだよ」
「今年のクリスマスもみんなで集まるんだっけ」
「男ばっか11人でね。華がなくて寂しいよねー。インパクトがないっていうのかなあ」
「インパクトは重要だよね。みんな楽しいこと大好きだし」
「ぼくらも楽しいこと大好きだし」

顔を見合わせてにやりと笑う。兵ちゃんの目はキラキラしてる。たぶん、ぼくの目も同じ。

「ね、兵ちゃん。しょうがないから、ぼくらでインパクトをプレゼントしてあげる?」
「しょうがないしねー。みんなを楽しませてあげようか」
「勿論、ぼくらも楽しむために」
「とーぜんだよ三ちゃん」

にかっと歯を見せ笑う兵ちゃん。ぼくもつられて笑顔になる。さあ、楽しくなってきた。

「じゃあ、早速計画練よっか」
「新作披露しちゃう?」
「しちゃうしちゃう。とっておきのやつ仕掛けよう」
「盛り上がってきたねー」
「はやくクリスマス来ないかな」
「兵ちゃん小学生みたいなこと言ってる」
「でも、今年の僕らはあげる側だよ」
「ってことは、ぼく達サンタクロース?」
「そうなるね」
「あは、じゃあとっておきのプレゼント用意しないと」
「サンタは大変だね」
「まったくだ」


現実にだって楽しいことは転がっている。ないなら君とで作ればいい。兵ちゃんとなら、どんな映画にだって負けない。


20101211


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