※現代で池田と伊助が幼馴染みだったらというパロディ。池田中2、伊助中1




「先輩、朝ですよ。早く起きないと遅刻しますよ」


 体にかかる重みで目が覚めた。伊助は馬乗りになり、おれの体をゆさゆさ揺さぶっている。

「……伊助、ジャマだ。どけ」
「おはようございます。今日も遅いお目覚めですね」

 伊助はベッドから降りると、そのまま机備え付けの椅子に腰かけた。まるでこの部屋に何年も住んでいるかのような自然な立ち居振舞いだ。

「朝から嫌味言ってる暇があるなら、ジョギングでもしてきたらどうだ」
「生憎、僕は朝から汗を流すような体育会系ではないんです。大体、僕がいないと遅刻するくせに何言ってるんですか」
「ばかにすんな。お前がいなくても起きれるわ」
「目覚まし、セットしてないじゃないですか」
「お前がいなくても、母さんがいる」
「あーあ、ここにだめな人がいる」

 そんな会話をしながら、制服に着替える。今日から新学期。クラス変えがないので新鮮味はないが、買ったばかりの教科書はぴかぴかしていて、少しだけ気分がしゃきっとする。

「昨日も夜更かしですか?」
「左近が、漫画をはやく回せってうるさいんだ」

 久作の所持している漫画を回し読みしているのだが、いま左近に回っている巻の次を持っているのがおれらしい。昨日、早く回せとお叱りを受けてしまった。

「んなことより、ネクタイ頼む」
「はいはい」

 ネクタイを伊助に渡して、そのまま締めてもらう。伊助は手先が器用だ。するすると器用にネクタイを締める手をぼんやり眺める。

「いい加減、一人で結べるようにならないと苦労しますよ」
「ばかにするな、ネクタイぐらい結べるわ」
「なら、毎朝僕に頼まないでください」
「だって、おれより上手いし」

 今日もきれいに結ばれたネクタイを鏡で確認する。ついでに寝癖でぼさぼさな髪に手櫛を入れる。

「そんな手櫛じゃ、その寝癖はとれませんよ」
「いいんだよ、面倒くさい」
「ほんと、先輩はだめですねえ」
「朝からだめだめうるさいな。ダメ出ししかしないなら、さっさと自分の家に帰れ」

 窓を指さして、家に帰れのジェスチャーをした。

 おれと伊助の家は隣どうしだ。いわゆる、お隣さんである。二階にあるおれの部屋の向かいが伊助の部屋となっている。そのため、窓を覗けば伊助の部屋が丸見え状態というわけだ。その逆もしかり。おまけに窓からの行き来が可能なため、ちょっとの用事で頻繁に互いの部屋を訪れる。簡単に行き来できることで、敷居が低いのだ。

 年が一つ違いということもあって、おれと伊助はまあまあ良好な関係を築いていた。仲良しこよしというわけではないが、小さな頃から一緒にいるだけあって、気心知れている、気のおけない存在である。

「帰りませんよ。今日はこっから学校に行きますから」

 けろっとした伊助の手には、どこに置いていたのやら、靴とかばんが握られていた。

「めしは?」
「食べてきました」
「……準備よすぎだろ」

 おれはまだ着替えしか済んでないってのに、伊助は今からでも登校できることをアピールするようにかばんを抱えている。いかにも新品だということがわかる、ぴかぴかの指定かばん。と、そこで異変に気がついた。伊助が着ている制服。袖の余ったブレザーに糊の効いた真新しいズボン。

「あれ?お前、制服……」

 よく見ると、今まで膝だったズボンの丈が足首まで伸びている。ブレザーも丈が余ってやけにぶかぶかだし、こいつの首にネクタイが巻かれている姿をそういや初めて見た。
 その制服は、伊助が六年間着用していたものと色々な点で違っていた。違っているどころか、いまおれが着ているものとそっくり同じだ。

「呆れた。今頃、気がついたんですか?先輩が中2に上がるなら、僕は中1に上がるに決まってるでしょう」

 伊助は呆れたように眉をひそめる。そういえば、この前入学式だとか言ってたっけ。

「というわけで、今日からまた同じ学校です。よろしくお願いしますね、センパイ」

 何が楽しいのやら、にっこりと嬉しそうに笑う伊助。
 一年ぶりに同じ学校に通うことになる幼馴染みとのこれからを想像すると、気分が高揚しないでもないが、素直に喜ぶのも癪なので苦笑いで返してやった。



一番の風



120423

お題提供:HENCE


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