※現パロ
 池田高2、二郭高1







「クリスマスに、お前と二人きりとかありえないんだけど」


 僕としては、先輩のその言葉の方がありえないです。


「どうしてこの寒い中、わざわざお前とメシ食いに行かなきゃいけねーんだよ」


 ああ、うるさい。クリスマスに好きな人と食事に行くことで、どうしてこんなに文句を言われなきゃいけないんだ。ましてや、このぶつくさ文句を言う先輩は、好きな人どころか僕の恋人のはずなのに。
 僕の二、三歩後ろを、気だるげについてくる三郎次先輩。せめて、隣を歩いてほしい。これじゃ、まるで引率者じゃないか。


「おい、聞いてんのか伊助。なんか言え、アホ」


 歩を止め、後ろを振り返ると、三郎次先輩は眉間に縦皺を寄せて、じろりと僕を睨んでいる。


「じゃあ言いますけど、先輩は何がそんなに不満なんですか」
「全部だよ、全部。クリスマスにお前と二人なんて、気持ち悪いっつーの」


 気持ち悪いとまで言われた。クリスマスに、恋人と出かけるだけで。どうして、ここまで言われないといけないんだ。本当に僕ら付き合ってるのか?いっそのこと、ここで喧嘩別れでもしてしまうか?

 と、思ったら負けなんだ。こんなことで喧嘩してたら、この先輩とは付き合っていけない。僕の恋人は、とんでもなくひねくれているのだ。ここで素直にへそを曲げてはいけない。何故なら、相手は素直とかけ離れた三郎次先輩なのだから。


「クリスマスに出かけるとか、ほんとありえねー」
「わざわざ出かけるとか遠回しな言い方せずに、簡単にデートと言ったらいいじゃないですか」
「っ、あほ!デートとか言うな!」


 お前はほんっと恥ずかしい奴だな!と、まるで唾でも吐き捨てるかのような勢いの三郎次先輩。
 三郎次先輩も、なかなか恥ずかしい人だと思う。デートと口にしただけで、なんて甘酸っぱい反応をするんだろう。この人、本当に僕より年上かな。


「だって、デートじゃないですか」
「そうだけど、そんな直接的な言葉を口にするな!」


 ぎゃんぎゃん吠える先輩は、小型犬みたいだ。ちょっと可愛い。


「先輩、気づきました?」
「は?なんのことだよ」
「僕が、だってデートじゃないですかって言ったら、そうだけど、って言いましたよ」


 やっぱ、ちゃんと分かってるんじゃないですか。クリスマスに僕と出かける理由。にんまり笑うと、先輩はさらに睨みをきかせてきた。どこまで素直じゃないんだ、この人は。


「伊助、あんま調子のんなよ」


 ぎろりとつり上がった眉は、不機嫌そのもの。でも、頬が赤く染まっているのは、寒さのせいか、それとも。
 と考えかけ、これ以上からかうのはよそうと思い直す。こうしたやりとりも嫌いじゃないけど、折角のクリスマスだ。もう少し、甘い雰囲気にしたって悪くない。


「ねえ、先輩」
「……なんだよ」


 とりあえず、この微妙な距離をなんとかしない限り、甘い雰囲気には近づけない気がする。僕と先輩とのあいだ、歩幅二歩分。
 上着のポケットに手を突っ込み、白い息を吐く先輩は、本当に寒そうだ。今日は冷え込むらしい。だから、せめてもう少し近くにきませんか、なんて。


「どうせなら、隣に並んで歩きませんか」


 その方が、きっとあったかいですよ。だから、一緒に歩きましょう。




隣においで



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