※転生パロで高1。金吾+いぶ鬼前提の金吾と黒木





「は組って11人だけだよね?」

そう訊くと、庄ちゃんは筆を握ったまま目をぱちぱちさせる。

「うん、11人だよ」
「だよね」
「金吾は思い出したばかりだから記憶が曖昧なのはわかるけど、僕らの人数ぐらい把握していてほしいな」

これ以上人数増えたらまとめきれないよと庄ちゃんが苦笑する。そうだよね、ごめんと謝ると、冗談だから本気で謝らなくていいと笑われた。

「金吾は変わらないなあ」
「そうかな?」

自分では結構変わったと思うんだけど。といっても完全に思い出したわけじゃないから、自分が変わったかの判断は曖昧だったりする。

「うん。素直なとことかそのままだよ」

そう言われても自分じゃピンとこない。まあ、庄ちゃんが嬉しそうに笑ってるからいっか。

「あと、竹刀を持ってる金吾を見たとき、やっぱり金吾は金吾だなって思ったよ」
「僕だって、まさか今も昔も剣道やってるとは思わなかった」

初めて竹刀を握ったのは幼稚園の時だ。物心ついた時から、剣はずっと側にあった。剣道の経験があって今も暇さえあれば竹刀を振る父さんの影響が大きい。ちなみに幼稚園で一番好きだった遊びはチャンバラごっこだ。

「でも、庄ちゃんだって変わってないよ」
「例えば?」
「いつも冷静なとこ」
「まあ、この冷静さが取り柄みたいなものだからね」
「いやいや、それだけじゃないでしょ。真面目で成績優秀な学級委員なんて、それすごく取り柄だと思うよ」
「そう?」
「うん」

力強く頷くと、庄ちゃんがありがとうと笑う。庄ちゃんは僕を変わってないって言うけれど、庄ちゃんの方こそ変わってないと思う。冷静でみんなをまとめるリーダー、現代でも学級委員をしているなんて感心してしまう。

「でも、どうしてそんなこと訊いてきたの?」

筋金入りの学級委員は不思議そうに首を傾ける。冷静な庄ちゃんの首を傾げさせるなんて、転生して成長したんじゃないの、僕。

「金吾が昔の記憶を思い出したのは最近だ。だから昔の事を全部思い出したわけじゃないってことは分かるよ。でも、は組のことはとっくに思い出してるじゃない」

この前みんなでごはん食べたばかりだよ。庄ちゃんはそう続けると、パレットに水色の絵の具を出す。そこから紺色や白色の絵の具と混ぜあわせて独自の水色を作り、画用紙にぺたぺた着色していく。選択美術は噂通りラクな授業が多いけど、たまに面倒くさい課題がある。今日がそれだ。本日のテーマは色を塗ろう。画用紙にいろんな色をひたすら塗る。意味わかんない、小学生かよ。ちっとも進まない僕の絵は未だ真っ白だ。

「そうなんだけどさ、足りないなあって思ったんだ」
「足りないって?」
「誰かが」

は組のみんなといるのは楽しい。一緒に勉強してたくさんの事を経験した仲間だ。楽しいことも苦しいことも全部全部一緒だった。この前みんなで行ったファミレスは本当に楽しかったし、この現代でみんなと騒げてすごく嬉しい。
でも、なにか足りないんだ。たくさん遊んで悩みがあったら相談して、いろんなことをたくさん話した、そんな誰かが僕にはいた。誰かはわかんないけど、いたんだよ。

「その誰かは金吾にとって大切な人なんだ」
「うん」
「だったら大丈夫。僕らとだって会えたんだ。その人に会える日も来るよ」
「そう思う?」
「まあ、確証はないけど」
「……庄ちゃん冷静すぎ」
「あ、ごめん」

ごめんねと必死で謝る庄ちゃんを見てたら笑えてきた。いつでもどこでも冷静。それが庄ちゃん。ほんと変わってない。庄ちゃんはテキトーなこと言わないもんな。

「なんだか会える気がしてきたよ」
「そう?」
「うん。庄ちゃんに言われたからかな」

赤の絵の具を手にとりパレットに広げる。

「僕さあ、またみんなと会えて同じ時代で過ごせてすごく嬉しいし、毎日楽しいんだ。誰かわかんないけど、その誰かと会えたらきっともっと楽しいよね」
「うん」

きっともうすぐ会える。庄ちゃんが言うんだから間違いない。
ねえ、昔みたいに僕の悩み聞いてくれる?君の悩みも勿論聞くよ。また二人でいろんな事をたくさん話したい。
筆に絵の具をつけると毛先がみるみるうちに赤に染まる。真っ白の画用紙にそっと塗りつけると、画用紙が一気に華やかになった。そのまま塗りたくるように筆を動かす。赤、赤、赤。
真っ赤に染まってく画用紙を見ていたら目の奥が熱くなってきた。うわ、泣きそう。なんで?意味わかんない。

「金吾?どうしたの、大丈夫?」

庄ちゃんが心配そうに僕の名前を呼ぶ。

「うん、なんでもない」

画用紙から顔を上げないままなるべく明るい声を出した。ごめん、庄ちゃん。嘘ついた。僕、今、すごく泣きそう。なんでかわからないけど、赤色を見てると懐かしくてたまらないんだ。


20101024


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