†小説†

□誰にも譲れない願い
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「はい、短冊」
「よーし、書くわよ〜」

やけに張り切るみつば。
とても嬉しそうに。
みつばにあんな顔させる願い事って何なのよ…。

「“美味しいものいっぱいむしゃコラしたい”っと♪」
「はあぁぁ!?」
「な、何よ」
「(あ…)」

つい大声を出してしまった。
だって妙に拍子抜けしてしまったんだからしょうがない。
みつばらしいといえばそうなんだけど。
…っていうか、なんでみつばの願い事がこんなに気になったのよ…。

「い、言いながら書くからびっくりしたのよ」
「七夕様に聞こえたほうが叶いやすいかもしれないじゃない」
「そりゃそうかもしれないけど…」
「まだ何かあるの?」
「どうせなら普段なかなか言えないことを願ったほうが良くない?」
「普段なかなか言えないこと…」

私が言ったことを繰り返した後、少しずつみつばの頬が色づいていく。

「……っ。ほ、ほっといてよねっ。ぶわぁーか!」
「!?」

意味がわからない。















「…そういえば七夕って、織姫と彦星が1年に一度だけ逢える日よね」

しばらくの沈黙の後、みつばがポツリとつぶやく。

「いきなり何よ」
「別に。ただ私が杉崎とそうなったら嫌だと思って」
「えっ?」
「だって私が食べたい時にスイーツをおごらせられないじゃない」
「ああ…(そういうことね)」
「何よ、その言い方」
「てっきり毎日逢えなきゃ寂しいってことかと思ったわ」
「なっ…」

強がっているけど、みつばは本当は寂しがり屋だって知ってる。
でも…

「か、勝手なこと言わないでよね。寂しがり屋だから一緒にいてあげてるのはこっちなんだから」
「はいはい。そういうことにしておくわ」
「ちゃんと感謝しなさいよねっ」

自分の気持ちを押さえて私を気遣うみつばの優しさにいつも甘えてしまう。
素直に言葉にできないけど感謝してる。

「…っていうか、織姫と彦星って夫婦なのよ。知ってた?」
「……!バ、バカじゃないのっ。誰があんたなんかと夫婦になりたいなんて言ったのよ!」
「いや、恋人って思ってる人が多いらしいから言っただけなんだけど」
「わ、わきゃっ…、わかってるわよ」

噛んでるし。
どんだけ動揺してるのよ。
墓穴を掘ったのはみつばなのに私までどぎまぎしてしまう。


「でも…そっか夫婦なのよね。それなのに1年に一度しか会えないなんて辛いわよね」

みつばの声のトーンが低くなったことに思わず彼女を凝視する。
なんであんたがそんなに辛そうな顔するのよ…。


「ま、まぁ二人が会えない分も私達が逢えばいいじゃない」
「杉崎…」

咄嗟に言ったことだったけど、みつばが珍しく素直に頷いたから良しとすることにした。
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