創作 壱

□甘い愛の迷い
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きゅうぅぅぅっと、締めつけられた胸が鳴った。





「つらら、帰るよ」


向けられた笑顔。

頬が熱くなる。


「どうしたの?顔が赤いけど・・・」

「へ?」


素頓狂な声をあげたら、いつの間にか彼の手はそこまで伸びていて。

そしてゆっくりと私の額を撫でた。


「熱は―――うん、ないみたいだね」

「わ、若!?」

「つららも、昔よくやってくれてたよね」

「え?」

「こうやってさ、手を当てて・・・」


私の胸の内なんて微塵も知らない様子で、あなたは笑う。


「つい癖で同じことしちゃうけど―――」


つららには意味がないよね。


「・・・」


言葉では伝えきれないほどに、とめどなく溢れる想い。

意味なんて、数え切れないほどにある。


「つらら?」

「若・・・」

「どうしたの?何かあった?」


落ち着きのない私に諭すような声。

その一つ一つの仕草、表情、声音。

全てが私を掻き乱すというのに・・・。


「・・・大丈夫です」

「そうは見えないけど?」

「・・・」

「まぁ、つららがそう言うなら信じるよ。さ、帰ろう?」


そう言って差し出された手。

触れようと躊躇いなく伸ばした手が、震えた。

好きで好きで好きで。

どうしようもなくて。

それでも今は、側にある温もりを確かめるために繋いだ指先をきつく握りしめることしかできないけれど・・・。


「つらら」

「はいッ!!」

「手」

「・・・手?」

「そんなにきつく握らなくても、ボクはどこにも行かないよ?」


宥めるように、けれど僅かにからかいさえ含まれた様子。


「も、申し訳ありませんッ!!」

「違うよ。あまりきつく握ると、つららの手が痛むだろ?」


その真白い手に、なんて軽い調子であなたは言うから。

この想いが解けないのなら、たとえ茨に塗れた蔦であっても私は喜ばしいと感じてしまうのに・・・。

離れていたくない。

ずっと側にいたい。


「リクオ様・・・」


伝わっていますか?


「どうしたの?」


時に甘く、時に苦い。

愛するが故の、迷い・・・。








 

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