創作 壱
□それを何と例えよう
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放課後。
今日もいつものように清十字団の活動をしていると、掲示板の書き込みで盛り上がる清継、島、巻、鳥居の背中をにこにこと見守っているつららの姿があった。
そんな彼女に視線を向けているのは、同じく清十字団のメンバーである奴良リクオ。
「つららも書き込みに興味があるの?」
彼がこそっと尋ねると、つららはさらっと返してきた。
「いいえ、全く。でも、どうしてですか?」
「うん、なんだか楽しそうだったからさ」
彼女が笑顔を絶やさないのはいつものこと。
けれど、先はいつも以上に楽しげに感じたのだ。
そんなリクオの言葉に一瞬きょとんとしたつららだったが、僅かな間の後にはなぜかクスッと小さく笑った。
リクオは不思議そうに首を傾げる。
「つらら?」
「リクオ様のことを考えていたんですよ」
「え!?ボク?」
「はい」
つららはにっこりと微笑んだ。
「ボクのことって・・・例えば?」
「そうですねぇ、リクオ様は時に凛々しく時に逞しく、そして慎ましさも忘れず魑魅魍魎の主として我々妖怪を―――」
「ちょ、つららッ!」
気恥ずかしい単語を羅列するつららに、やっぱりいい!とリクオは慌てて制止をかけた。
「ふふっ、冗談ですよ」
「・・・あぁ、冗談か」
と、どこまでが冗談なのかは知れないが、その言葉に安堵して一息吐く主の姿に、つららは柔らかな笑みを浮かべた。
「・・・ちょっと、リクオくん?」
「え?うわぁ!カ、カナちゃん!?」
いきなり低い声で囁かれたかと思ったら、隣に座っていた幼なじみの家長カナが酷く訝しげな顔つきでこちらを見ていた。
「なにコソコソ話してるのよ?」
「え!?」
「今、及川さんと話してたじゃない」
ジロリと突き刺さる視線が酷く痛い。
「あ、いや・・・今日も清継くんは熱心だなぁって・・・」
「本当に?」
「ほ、本当だよ」
疑い深い幼なじみに苦笑しながら、リクオは静かに溜息を吐いた。
けれど鋭い眼差しの一瞬の隙をついて側近の彼女を見遣れば、そちらも僅かな隙を見て苦笑したように小さく笑んでくるから、気を引き締めねばならぬ場面であるのにリクオは胸がじわりと温かくなるのを感じるのだった。
「先程は少し驚きましたね」
二人きりの帰り道、つららは言う。
「うん、カナちゃんは鋭いからね・・・」
何の気なしにさらりと言うリクオを、半歩後ろを歩くつららは半眼で見遣った。
夕陽が二人の影を歩道に落とす。
「・・・リクオ様」
そして呆れた気色を隠そうともせずハァと脱力して、つららは肩を落とした。
「つらら?」
「・・・家長の場合、鋭いわけではないと思いますよ」
「え?」
どういうこと?と、リクオ。
「リクオ様のことが気になるから、リクオ様を視線で追うのです」
「・・・気になる?」
まるで訳が分からないというようにリクオは問い返す。
「・・・本当に。どうしてご自分のこととなるとこれほどまでに・・・」
つららはまたもハァと遠慮無く、長く息を吐いた。
さすがに主に対する言葉ではないと思ったのか語尾は曖昧に濁したが、当のリクオがそれを理解するはずもなく・・・。
「つらら?」
「ですから先日も申し上げましたように、家長はリクオ様に“ホ”の字に“レ”の字に―――」
「ちょッ、つらら!」
「はい?」
慌てて口を挟んだリクオに、歩を進めながらつららは不思議そうな顔を向けた。
「またそれ!?この間も言ったけど、どうしてそうなるんだよ!」
「・・・どうして、と言われましても・・・強いて言うなら女の勘でしょうか」
そこだけ淀みなくスパッと言い切ったつららに、リクオは言葉を詰める。
「か、勘!?」
「とにかく、家長のあれは鋭いのではなくリクオ様に“ホ”の字なのです、もう少しご自分の立場を自覚なさってください!」
つららは言って歩調を早めた。
「ま、待ってよ、つらら!」
リクオは慌ててその後ろ姿を追いかける。
あの時。
幼なじみの一瞬の隙をついて重なった、二つの視線の意味に。
彼が気づくまで、あと少し―――。
名もない二人の恋はまだ始まったばかり。
“リクオ様のことが気になるから、リクオ様を視線で追うのです”
「待ってってば!つらら!」
了