創作 壱

□ゆくりなく、観想。
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「なぁ、つらら」

「はい?」

「それ、楽しいか?」


そんな突然の主の言葉に、つららはきょとんと疑問符を浮かべた。


「・・・えぇっと“それ”とは、これのことでしょうか・・・?」


洗濯物を畳んでいたつららの背中をぼんやりと眺めていたリクオは、その言葉に小さく頷く。

つららは手にしていた“ぬ”の手拭いを掲げて見せていた。


「どうしたんですか?急に」


小さく笑って、つららはまた慣れた手つきで手拭いを畳み始める。

リクオは暫く黙ってその姿を眺めていたが、やがて徐に腰を上げると彼女の背中へと回った。


「若?」


だが対するつららも慣れたもので、無言のままその腕に抱き込まれても、表情には笑顔を浮かべるだけでさほど驚いた様子はない。


「・・・ありがとな」

「若?」

「実は、遠野で―――」






遠方の地での、修業と称した家事雑用。

浮かぶのは、自分がその立場に立って初めて分かる彼女の姿―――。


「そんなことが・・・」

「・・・何が可笑しい?」


クスクスと笑うつららに、リクオは不思議そうな表情を向けた。


「いえ。若が家事をされるお姿、私も一度拝見させていただきたいと思いまして・・・」

「見世物じゃねぇぞ」

「ふふっ、分かっております」


若干ふて腐れたような様に、つららはこくりと頷く。

笑みと共に発された言葉に信憑性など微塵も感じられなかったのだが。


「・・・見返りを求めるものではありませんが、そうしてリクオ様の中に在ることができるということは、側近としてとても喜びを感じます」


誰のため、などと意識してすべきことではない。

それでもその姿は主の中にしっかりと刻み込まれ・・・。

仕える者として、これ以上に誇れることがあるだろうか。


「洗濯だけじゃねぇ」

「はい?」

「遠野に出ても、一度だってお前を忘れたことはなかった」


リクオは言う。


「お前も、オレを覚えていてくれたかい?」

「・・・」


当たり前だ。

と言ってやりたかったが、その口調がやけに悪戯染みていて、つららはわざとらしくつんと顔を背けた。


「そのような意地悪を仰るリクオ様は忘れてしまいました」


為て遣ったり、と息を吐くも束の間。


「・・・だったら思い出させてやる」

「へ?」


耳元で低く囁かれ、つららの身体がびくりと跳ねた。


「わ、忘れてなどおりませんッ!!」

「今更だな」


楽しげな声音がつららの側に響く。

為て遣ったのはどうやら彼のほうだったよう。


「リクオ様ッ、洗濯物がまた途中―――」

「後で手伝ってやる」


見たかったんだろ?と言われれば、もう返す言葉は見つからなかった。








 

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