創作 壱
□願わくば…
1ページ/1ページ
小さな頃からずっと一緒で。
遠くなるなんて想像ができなくて。
この距離は縮まる一方なんだって。
信じて疑わなかった・・・。
突然現れたあの子。
いつの間にか当たり前のように彼の側にいて。
当たり前のように私の場所が失くなった。
「・・・」
―――ううん、違う。
失くなったんじゃない。
きっとずっと昔から、あの場所は彼女だけのもの。
誰も、入る余地なんてなかったんだ―――。
帰り道。
いつものように、私はリクオくんと歩いていた。
けれどその横には及川さんもいて、そして彼女の後ろには倉田くんがいた。
「今日の体育の授業では大活躍でしたね!」
流石です!と、及川さんは両手を上げて喜んでいる。
(そんなに喜ぶことかな・・・?)
「見てたの?」
リクオくんは及川さんに聞いた。
(どこで見てたんだろう・・・)
「もちろんです!この目でしっかりと!」
「しっかりとって・・・恥ずかしいな。それに、あれは島くんの力があったからで―――」
「いいえ!ゴールを決めたのはリクオくんです!!」
(ゴールを決めたところまで見てたの!?)
けれど不思議な及川さんの言葉に反応しているのは私だけのようで、リクオくんは特別気にならないようだったから黙っておいた。
「ありがとう」
リクオくんは笑う。
ほら。
こんなにも簡単に彼の笑顔を引き出しちゃう。
(・・・)
だから、少しだけ。
「ねぇ、リクオくん」
「なに?カナちゃん」
「今、臨時で来てる保健医の先生いるじゃない?あの人ね―――」
ほら。
ちょっとだけ話を変えれば及川さんはリクオくんから視線を外して、後ろを歩く倉田くんと話し始めた。
二人を見ていて思ったこと。
及川さんはあまり学校のことに詳しくない。
それがどうしてなのかは分からないけれど、先生や授業の話になると途端に聞き役に回る。
(・・・ズルイって分かってるけど)
「へぇ!そうなんだ」
「うん、3組の子から聞いたんだけどね。びっくりしちゃった」
「確かにそれはボクも驚くよ、でもなんか・・・巻さんや鳥居さんが好みそうな会話だね」
「うん、私も思った」
弾む会話。
(楽しい・・・)
リクオくんにバレないように、私はこっそりと笑った。
その時。
「リクオくんッ―――」
及川さんの声がそう呼んだかと思うと、彼女の手がリクオくんの身体をそっと押した。
その瞬間。
「ッ、!!」
私達の間を猛スピードで一台の自転車が走り抜けていく。
「わッ!」
「カナちゃん!大丈夫?」
「あ、うん・・・ありがとう」
差し出された手を掴んで、よろめいた身体を立てる。
私に向けられた手。
嬉しい。
嬉しいはずなのに・・・。
「ありがとう、つらら」
「いいえ」
及川さんは短く笑って、すぐに倉田くんとの会話に戻っていった。
「リクオくん、それでね―――」
知ってるよ。
気になって仕方ないって顔してる。
小さい頃から一緒にいるから分かっちゃうよ。
「リクオくん・・・」
倉田くんに視線を向け、時折楽しそうに笑う彼女。
そんな彼女を見て、表情を緩める彼。
そして彼を見つめるのは他でもないこの私・・・。
(びっくりするくらい、一方通行)
それでも。
好きな人の笑顔が見られて幸せ、なんてそんな大人になれなくて。
晴れ渡る空を見上げて溢れそうになる涙を堪えるのが精一杯。
「家長、さん?」
「え?」
いつの間にか、リクオくんを越えて私の隣に並んだ及川さんが不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「何か考え事をされていたみたいだったので・・・」
危ないですよ?って、及川さん。
「うん、そうだね・・・気をつけるね」
「はい」
そう言ってすぐに戻る及川さんの視線。
「・・・」
貴女はどこまでも真っ直ぐだから。
きっと、そこに惹かれるんだね。
彼も。
―――私も。
「・・・ありがとう、及川さん」
「家長、さん?」
今はまだ全部を笑顔では受け止められないけれど。
いつか笑って見送ることができるように―――。
「カナちゃん?」
「行こう、リクオくんッ!及川さんも倉田くんも、早くしないと行っちゃうよ!」
―――彼女の隣で誰より幸せそうに笑う、貴方を。
了