創作 壱
□契機
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同族の血というものが存在し、妖が妖を呼ぶというのなら―――。
今日ばかりは妖である自分を恨もう。
「くッ、!」
瞬間、腕に走った鋭い痛みにつららは顔を顰めた。
眼前に飛び散る鮮血。
受け身の体勢を素早く立て直し、手にした氷塊の剣を掲げる。
振り翳し、一気に切り込む―――。
「ハッ!」
「・・・ッ、」
血濡れの剣に飛散する液。
「ハァ、ハァ・・・」
つららは荒い呼吸を繰り返しながら、背後で怯える人間達を盗み見た。
―――――――――――
「旧校舎へ行く!?ちょっと清継くん、本気!?」
「なんだい、奴良くん。ボクが冗談を言うとでも?」
「やめなよ、危ないよ!あの場所は近づかないほうがいい、絶対に行っちゃだめだ!」
「・・・何を根拠にそんなことを言うんだいキミは。第一、この間―――と言ってももう随分と前になってしまったが、あの時の研究では少しばかり気を抜いてしまって充分な成果が得られなかったじゃないか」
不甲斐無い、と清継は至極残念そうに言う。
「そこでだ、あの日は確認できなかった謎の正体を、今日こそこの清十字怪奇探偵団が解き明かす!う〜ん、一寸の狂いもない素晴らしい計画だ!」
「清継くん!!」
「キミは留守番をしていて構わないよ。ボクには島くんや巻くん、鳥居くんに家長くんというこの素晴らしきメンバーがいるからね!」
誇らしげな様子にリクオは目を見開いた。
「え?巻さんも鳥居さんも、カナちゃんまで行くの!?」
頓狂な声をあげリクオが驚倒すると、巻と鳥居は顔を見合わせながら苦笑した。
「どうせ強制参加だろ?」
「予定もないしね〜」
「カナちゃんはッ!?」
「私?私も特に予定はないし・・・」
「素晴らしい意気込みだぞ、家長くん!それでこそ清十字団だ!」
慌てるリクオを余所に、メンバーは早速話し合いを始める。
「ちょっと・・・」
彼の言葉がいよいよ届かなくなった時―――。
「私も参加させてもらっていいかしら?」
教室のドアが開き、一人の少女が姿を現した。
「お、及川さんッ!」
「ん?あぁ、及川くんじゃないか」
「廊下を歩いていたらなんだか楽しそうなお話が聞こえたものだから・・・私こういうの大好き!」
「オ、オレも大好きっす、及川さん!!」
島は緩みきった表情で賛同する。
(つららッ・・・!)
リクオは突然現れた側近に、またも驚倒しそうになった。
「つららッ」
掠れた声で呼ぶ。
すると彼女はにっこりと微笑んだまま、静かにリクオの隣へと並んだ。
「―――存じております、リクオ様。総大将からも言づてを受けておりますが、本日の総会への若の参加は絶対です。ですからこちらは私にお任せください、責任を持ってお守りいたします」
視線だけはにっこりと清継達の方へ向け、その口から紡がれる酷く小さな声音は隣に立つ己の主へ。
「でもつらら、お前も知ってるだろ?あの場所は―――」
「はい。ですがあれから随分と日が経っています、警邏の強化を務めている黒羽丸からも新たな情報は入っておりませんし、杞憂に過ぎぬかと・・・」
「でもッ・・・」
「若のお気持ちは分かります。しかしここで彼らを止められぬ以上、私が出向く以外に方法はありません。青にも連絡は入れますし、もしもの時は黒や首無の援護も得られるように―――」
確かにやる気に満ちた清十字団―――ほとんど清継だけだが―――ほど厄介なものはない。
ある意味、妖怪より質が悪い時さえある。
「・・・」
けれどリクオの不安は消えなかった。
それでも揺るぎない視線と畳みかけるような口調。
「・・・大丈夫ですよ、若」
そして宥めるような笑顔で言われてしまっては、黙って頷くしかなかった。
―――――――――――
「黒羽丸・・・」
旧校舎へ入る前、つららは念のため黒羽丸に近況を確認した。
案の定、彼から返ってきた言葉はなんら変わりがないとのこと。
もう運が尽きたとしか言いようがない。
「青は何してるのよッ・・・」
未だ連絡のつかない片割れに、つららは舌打ちをした。
「やだ・・・」
「あたし達どうなっちゃうのよ・・・」
背を向けた霧の向こうで清十字団の掠れた声が聞こえる。
敵の数は二体と少ないが、彼らを守りながらでは攻めへの集中が敵わない。
「ッ、!!」
突然伸びてきた触手を両断し、一歩後ろへ引く。
間髪容れず眼前へと迫った身体がつららの首目掛け飛んだ。
唇から繰り出す吹雪。
「ギャァッ!」
でかい図体が狂ったようにのた打ち回る。
四方八方に散るガラス。
「こっち、こっち来る!!」
「誰かぁ!!」
しかしそれが向かった先は―――つららの背。
彼らだった。