創作 壱

□いつも思っているよ
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「すごいなぁ・・・」


なんの前触れもなく呟かれた言葉に、つららは洗濯物を畳んでいた手を止めた。


「何がです?リクオ様」

「あ、いや」

「あぁ、清十字団ですか?確かに彼らの意欲には目を見張るものがありますね・・・ですが、清継くんの若に対する崇拝ぶりは私も納得です!」


さすが若!と、つららは一人頷く。


「違うよつらら、ボクが言ってるのは―――」

「あ、それとも島くんですか?彼は・・・お気持ちは嬉しいんですけど・・・あ、それとも巻さんや鳥居さんですか?彼女達もすごいですね、同じ女性として見習わなければならないところがたくさん―――」

「ちょ、ちょっとつらら!」

「はい?」


ぽんぽんとリクオの呟きの対象を挙げていくつららだったが、笑顔で話す彼女の言葉を遮ったのは慌てた様子のリクオだった。


「ボクがすごいって言ったのはつららのことだよ」

「え?私、ですか・・・?」

「うん。毎日早起きしてボクのお弁当を作って、みんなの朝ご飯まで作って、それに洗濯や掃除も・・・それから学校に行って、今日みたいに清十字団の活動があれば家の仕事もして、活動にも参加して・・・つららはすごいよ」


リクオは改めて納得したように言った。


「そんなッ、私はただ側近としての務めを果しているだけで・・・」

「・・・すごいと思うけど、やっぱり大変だよね」

「・・・若?」

「つららがいてくれなくちゃだめだって思うよ。つららが大変だっていうのも分かっているんだけど・・・やっぱりボクだけじゃどうにもならないこともあるし・・・」

「と、言いますと?」

「ほら、今日もさ―――」



―――――――――――



「リクオ、ちょっと運ぶの手伝ってくれる?」


いつものように“趣があり妖怪研究を活動内容とする清十字団には最適”という理由で選ばれた奴良家には、清継を始めとする清十時団の面々が会していた。

そして妖怪の姿が描かれたカードを使っているというだけで、どこが妖怪研究なのかよく分からない遊戯をしていると、廊下へと続く襖が控えめに開かれそこからリクオの母が顔を見せた。


「ちょっと手が塞がっちゃて・・・」

「お手伝いします!」


遊戯には参加せず、リクオの勇姿に目を輝かせていたつららが若菜の声に透かさず立ち上がった。

遊戯に参加していたカナも同時に声をあげようとしたが、自分が抜けてしまえば周りに迷惑がかかると判断したのだろう、渋々といったように口を噤む。


「あら、ありがとう。じゃぁ氷麗ちゃんにお願いしようかしら」

「はい!お任せ下さい!」


元気よく返事をするその様子に、身に纏う衣服は違っても彼女の醸す雰囲気は全く変わらないのだと、若菜は淡く微笑むのだった。






「じゃぁ、これをお願いね」

「はい!」


若菜から盆を受け取ってつららは炊事場を出た。

今日は総会もなく、貸元の来訪も聞いていない。

何事もなく無事に終わるようにと願いを込め、清十字団のメンバーがいる客間の襖に手を掛けたその時だった。


「雪女ー」

「ヒッ、!?」


びくりと身体が震える。

静寂に満ちた廊下に突然鳴った声。

手にしていた盆はひっくり返り、乗っていた饅頭は宙に飛んだ。


「ハゥワッ!」


つららは慌てて手を伸ばす。


「た、大変だわ!」


幸い包み紙に包まれていたため大事には至らなかったが、客人のための茶菓子はあらゆる場所に転がってしまっている。


「あー、饅頭だ」

「これ、食べていいの?」


そう。

つららが驚いた原因。

それは、彼女の足元に纏わり付く小妖怪達だった。


「雪女ー、遊ぼー?」

「饅頭食べるぞ〜」

「や、やめなさい!それはお客様の分よ!」


つららは慌てて饅頭をかき集める。

だが慌てれば慌てるほど、彼女の髪やスカートにしがみつく小妖怪達。


「納豆は!?今日はお客様が来るから面倒を見てってお願いしたのにッ」

「納豆小僧はぬらりひょん様とお散歩ー」

「えぇ!?」


信じられない言葉につららは調子外れな声をあげた。

ここがどこであるのかも忘れ・・・。


「遊ぼうよぉ」

「雪女がいないとつまらない〜」


彼らはくるくるとつららの周りを駆け回る。


「わ、分かったわ、分かったから!お客様が帰ったら遊んであげるから、今はお願い、大人しくして―――」

「ん?その声は及川くんかい?」

「ッ、!!」


肩に乗った者。

髪にぶら下がる者。

足首に引っ付いた者。


(待って・・・!!)


つららは祈った。

が、彼女の願いは虚しく、襖は躊躇いなく開かれる。


「・・・及川くん?」


清継の訝しげな声。

無理もない。

つららは盆を片手に、なぜか客間に背を向け廊下に座り込んでいたのだから・・・。

その周りを妖怪―――ではなく、落ちた饅頭が囲む。


「あ、・・・」


つららが心許ない声をあげた。

そして、その時だった。

動けずにいるつららを救う、リクオの声が鳴ったのは。
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