創作 壱

□ボクのすきなひと
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「若ぁ?どこですか、若〜?」


奴良組本家。

ここは今日も、変わらず穏やかな空気が流れている。


「こっちだよ、雪女!」

「まぁ、若!そんなところにいらしたのですね?」


幼子の身体を隠していた草の根を、雪のように真っ白な手が掻き分ける。


「見つかっちゃったか」

「ふふ、若は隠れん坊がお上手ですね」


草の上に転がった小さなの身体を起こしながら笑うのは、彼の側近であり雪女のつらら。


「雪女が下手なんだよー」

「あら、そうですか?」

「だっていつも一番に見つかるじゃないか」


雪女が鬼になるとずっと隠れていなくちゃならないからなぁ、とリクオは不満げに、けれど楽しそうに頬を膨らませた。


「そうですねぇ・・・、では若が教えてください!」


雪女は思いついたように言った。


「ボク?」

「えぇ。誰にも見つからない場所を、私に教えてください」


内緒話をするように、人差し指を立てて言うとリクオはそれを二人だけの秘密のように感じたのか、嬉しそうに笑った。


「いいよ!この間見つけた秘密の場所、雪女だけに教えてあげる!」

「あら、見つけたんですか?秘密の場所」

「うん!」


雪女は微笑む。


「ここだよ!ここなら絶対に見つからないから。納豆にも河童にもまだ教えてないんだ。ボクだけが知ってる場所だから、次に雪女が隠れる番になったらここに来るといいよ!」


そう言ってリクオが指差す場所―――そこは大きな岩と松の木が並ぶ場所。

物陰故に見つかりにくく、小柄な彼女であれば身を潜められるくらいのスペースがあった。

雪女の手を引っ張ったまま、リクオはそこに近づいてゆく。


「確かにここならば見つかりにくいかもしれませんね」

「でも他の人には絶対に教えちゃだめだよ!?雪女だけに教えてあげるんだから!」

「えぇ、誰にも言いません」


そう言って雪女は笑うが、リクオは自分がやっとの思いで見つけた場所だからと少し心配になる。


「雪女!約束!」


言ってリクオは彼女の手を取った。


「若?」

「指切り。約束だから指切りするんだ」

「・・・ふふっ、分かりました。指切りですね?」


雪女は柔らかく微笑んでそう言うと、そっとリクオの小さな手を取った。

触れ合うとひんやりとした心地好さが伝わってきて、リクオはそれが嬉しくて彼女に悟られないようこっそりと微笑んだ。

納豆や河童に言うとよく分からないような顔をされるけれど、二人は雪女と手を繋いたことがないから分からないんだよ、と常々リクオは言っている。

手を繋げば分かる。

雪みたいに冷たくて、でもちゃんと温かい・・・雪女の手。


「約束だよ!」

「はい。約束、です」


リクオの小指と雪女の小指がきゅっとして、離れた手がリクオの頭を撫でた。


「・・・」

「若?」

「・・・なんでもない」

「そうですか?ではそろそろ屋敷に戻りましょう、もうすぐ夕食の時間ですよ」

「今日は何かな?」

「ええっと・・・今日は毛倡妓の当番ですから、こっそり覗きに行ってみましょうか?」

「うん!」

「足元に気をつけて下さいね?」


言われて見上げれば雪女が笑っている。

頭を撫でられたことに子供扱いされたと感じたが、やっぱり隣にいる彼女が笑っていると嬉しくて、明日は何が食べたいですか?と満面の笑みで問いてくる雪女にリクオはグラタン!と大きな声で返事をするのだった。






「雪女〜?」


次の日。

帰宅したリクオは、いつもならば誰より先に自分を迎えてくれる側近の姿が見えないことに気づいた。


「帰ってきたら遊ぶ約束してたのに・・・」

「若、雪女なら玄関ですよ」


どこから飛んできたのかカラス天狗がやって来て、リクオにそう教えてくれた。

リクオは急いで玄関へと向かう。

すると縁を越えた柱の陰、視線の先に見慣れた着物が見えた。


「あ!雪女―――ッ、!」


リクオは言葉を飲み込んだ。


「―――ですね」

「そうね、さすが猩影くん」

「いや、つららの姐さんこそ、親父からよく聞いていますよ」

「狒々様から?」

「えぇ、三代目の側近として素晴らしい働きをされていると」

「そ、そんなことないわ、私もまだまだ学ぶことばかりで・・・」


雪女は袖で口元を隠し首を横に振った。

けれどその表情は至極嬉しそうに緩み、それを見た猩影も優しげな笑みを浮かべた。


「でもそう言ってもらえると嬉しいわ。リクオ様には幼少のみぎりよりお仕えしているけれど、時々私でいいのか不安になって・・・」


誰に何かを言われたわけではない。

だからこそ、自分が奴良組を背負って立つ次期大将の側近として相応しいのか不安になるのだ。


「雪女!」


その時。

緊迫したような声が彼女を呼んだ。
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