創作 壱

□そろそろ終止符を打とうか
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「・・・つらら」

「はい?」


陽光射し込む縁で洗濯物を畳んでいた彼女は、その声にくるりと振り返った。

純真無垢。

言うならばそれ。

なんの疑いもなく、ただ一心にボクを見つめるその瞳。

孤を描いたままの唇。


「若?」


言葉に詰まる様を不思議そうに見つめる彼女に、ボクは焦る胸奥を抑えて口を開いた。


「―――好き、だよ・・・、つららが」


そう―――。

吐き出した。

言ってやった。

握った指先が震える。


「若」

「ぁ、えっと・・・」

「ふふっ、どうしたんですか?そのように改まって」


つららは着物の袖で口元を覆いながら小さく笑った。


「私も、お慕い申し上げておりますよ?」

「・・・」


ほら。

キミはいつだって、笑ってその言葉を吐く。

笑うんだ。


「ずっと、お慕い申し上げております」

「・・・」


でも違う。

そんなんじゃない。

そんな言葉が欲しいわけじゃない。


「若?」


なんの疑いもなく首を傾げてくるその仕草にボクはきつく唇を噛んだ。

口内に広がる鉄臭い味。


「・・・いや、なんでもないよ」


ふいっと顔を逸らしてボクは庭先に視線を投げた。

今は彼女の顔を見ていられなかった。


「・・・若、そちらへ行ってもよろしいですか?」

「・・・」


気まずくて何も発さずにいると、それを肯定ととったのかつららは洗濯物を縁に置いたまま部屋へと入ってきた。

そして畳の上で胡座をかくボクの隣に静かに腰を下ろす。


「どうしたんですか?若」


先程と同じことを問いてくるつらら。


「・・・」

「リクオ様?」

「・・・」

「・・・大丈夫ですよ」


微笑んだまま顔を覗き込まれたかと思うと、つららはボクの目の前に膝を立て視界を覆い、その腕でゆっくりとボクの身体を包み込んだ。


「ッ、つらら!?」

「大丈夫です、若」

「え、―――」

「私が必ず、お守りしますから・・・」


腕の力が強くなる。


「・・・」


組の行く末。

幹部の重圧。

そして、もう一人の自分の存在。

確かに頭を悩ませる事由なら充分すぎるほどにある。

けれど今は違う。

そうじゃない。


「大丈夫ですよ・・・」


優しく背中を撫でられても。

宥めるように囁かれても。

今はただ、苦しい。

苦しい。

苦しい。


「つらら・・・」

「はい」

「側にいてよ・・・」

「えぇ」

「側にいて」

「・・・つららはここにおりますよ、リクオ様」





キミは残酷だ。

残酷で、それでいて酷く優しい。


「つらら・・・」

「ずっと、リクオ様のお側におります・・・」


その言葉が、ボクに重くのしかかる・・・。








 

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