創作 弐

□スケープゴート
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「おい、あの子だろ?1年の及川氷麗」


はっきり言って興味がない。


「やっぱり可愛いなぁ〜」


意味がない。


「彼氏いるのかな!?」


私の一分一秒は、あの方だけのためにある―――。






「あ・・・、リクオ様!」

「うわッ!つ、つらら!?」

「ふふっ。おはようございます!」


教室から一人出てきた奴良リクオの腕に、廊下を歩いていた及川氷麗は抱きついた。


「おはようって・・・・朝も会ったじゃないか」

「ですが一緒に登校はできませんでした!」


朝一で錦鯉へと向かっていたため、泣く泣く主の護衛を青田坊に任せるしかなかったつららは唇を尖らせながら言う。


「だけど、朝はちゃんと起こしてくれただろ?」

「はい!それが私の役目です!」


宥めるように笑うリクオに、つららは嬉しそうに胸を張った。


「今日はリクオ様の好きなものをたくさん詰め込みました!」

「そうなの?それは楽しみ―――」

「彼氏?あぁ、あいつだろ?いつも及川さんと一緒にいる―――えぇっと、なんだっけ・・・」

「奴良だろ?奴良リクオ」

「あぁそうそう!奴良リクオ!」


嬉しそうに弁当箱の中身を説明するつららに笑いかければ、いつものように聞こえてきた噂話にリクオは小さく溜息を吐いた。


「つらら、屋上行こうか?」

「リクオ様・・・?」


ここで不思議そうな顔をするつららも、いつもの通り。

リクオはそれにまた苦笑して、彼女の腕をそっと取った。


「ほら、やっぱり付き合ってるだろ?」

「本当だ・・・」


これもいつもと、変わらない。


「・・・」


変わらない。


「あ、の・・・リクオ様?」

「え?」


と、躊躇いがちな声にハッとしてリクオが慌てて足を止めれば、隣を歩いていたつららが少し困ったような顔で俯いていた。

そして、どうしたのと問い掛けようとした時、じわりと熱を帯びている指先に気づく―――。


「―――ッ、ご、ごめん、つらら!!」


熱、ではない。

これは痺れだ。


「わ、私は大丈夫です。それより、リクオ様のお手が―――」

「ボクのことはいいから」

「あッ―――」


奪い取るように引き寄せれば、やはりつららの指先はほんのりと赤く染まっていて。


「ごめん・・・」

「わ、若ッ!?」


項垂れてしまった彼に、つららは慌てて手を伸ばした。


「リクオ様。私は平気ですから、ね?」

「・・・このまま、連れ帰りたい気分だよ」

「・・・へ?」


ハァ、と吐き出される溜息。

今尚、向けられる好奇の目。


「家に帰れば、すぐに二人きりになれるのに・・・」

「ふ、ふたッ・・・!?」

「抱きしめたり、キスしたり・・・つららはボクのものだって―――」


いっそ叫んでしまおうか。


「ごめんね、つらら。我慢できそうにない」

「わ、若・・・?」

「・・・今は我慢するけど、帰ったら―――覚悟しろよ?・・・つらら」

「・・・え?え?えぇッ!?」


今宵の晩餐を前に、贖罪の犠牲はぶるりと身体を震わせる。

廊下を歩いていた生徒達が、一斉に振り返った。








 

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