創作 弐
□誓いと甘美
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「はい、つらら」
「へ?」
掌に乗せられたのは小さな箱。
可愛らしい織物で包装されたそれを、主の部屋で繕いものをしていたつららは不思議そうに見つめた。
「ええと、これは・・・」
「バレンタインのお返しだよ」
「・・・え?」
にっこりと笑うリクオの言葉に、つららは声を漏らしてぐるりと首を巡らせる。
するとそこ―――壁に掛けられた七曜表は、確かに弥生の十四日を差していた。
「これを・・・私に?」
「うん。開けてみて」
リクオは言うと、楽しげに小箱を見遣る。
「あ、はい・・・」
つららは恐る恐る、朱鷺色の織物に手をかけた。
しゅるり、と解く。
すると―――。
「わぁ・・・」
ゆっくりと開いた箱の中。
そこには、煌めく硝子細工の帯飾りが入っていた。
「リクオ様、これ・・・」
乾燥させた桜花を埋めた硝子が象る花弁。
色彩は透けて見える桜花のみだったが、それは韓紅や紅梅色など優しげな色味ばかりで、感嘆の溜息を漏らすつららの白い着物によく映えていた。
「本当はアクセサリーがいいかなって思ったんだけど―――」
そう言ってリクオは頭を掻く。
「そういうお店はボク一人じゃ入れないから―――その、・・・カナちゃんに相談しようかなぁなんて―――」
「だ、だめですッ!!」
言いにくそうに語尾を濁したリクオに、つららは慌てて口を挟んだ。
「うん、知ってる。だから選んだんだ、母さんと」
「へ?わ、若菜様・・・?」
「うん。あ、でも決めたのはボクだよ?」
母親の名前にぽかんとしているつららに、リクオは肩を竦めて言う。
「ありがとう、ございます・・・」
「どういたしまして」
「・・・リクオ様」
「つらら・・・」
どうして泣くのさ、とリクオはその頬にそっと手を伸ばした。
了