創作 弐

□睦びの月の胡蝶草
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「おめでとう、つらら」


明くる今日を告げる土圭の音と共に。

二人の唇がゆっくりと重なる。






睦びの月の十一日。


「ありがとうございます、リクオ様・・・」


つららはリクオの袖を掴んで、広い胸に身体を預けた。


「・・・どうした?」

「こうして、側にいてくださって・・・」


その音吐には寄り添うような暖かさがあった。


「・・・当たり前だろう」


何を今更、とリクオは可笑しそうに顔を綻ばせる。

側に在ることなど当然。


「リクオ様」

「どうした?」

「花言葉は、知っていますか?」


つららは不意にそう問い尋ねた。


「花言葉・・・あぁ、オレは男だからそういうのに詳しくはねぇが・・・それがどうしたんだい?」

「生まれた月日に因んだ花のことを誕生花と呼ぶのですが・・・私の誕生花は胡蝶草という花なんです」

「胡蝶草?」


リクオは聞き慣れないその名前に、不思議そうな表情を浮かべる。


「はい。その胡蝶草の花言葉が“よきパートナー”なんです」

「よき、パートナー?」

「えぇ」


つららは復唱したリクオに向けて嬉しそうに一笑した。


「素敵な、花言葉です・・・」


“よき仲間”

“よき相棒”

“よき配偶者”


「あぁ、そうだな・・・」


幸せそうに瞳を伏せるつららに、リクオは歓笑した。


「どんな花なんだい?その胡蝶草っていうのは」


リクオは腕の中の濡羽色の髪を梳きながら聞く。


「花は小花なんですが、色も様々で赤桃や紫などとっても綺麗なんです!花弁の様が蝶に似ているので胡蝶草と呼ばれていると、毛倡妓から聞きました!」


それは至極楽しそうに語るから、リクオも己のことのように胸中が温まるのを感じた。

堪らなく、愛おしい―――。


「つらら」

「はい?」


そして。

リクオは見上げたつららの唇を掠め取った。

刹那に見開かれた瞳もやがてはゆっくりと閉じられ、身を任すように冷たい指先が着物の袖を握るから、リクオはそのほっそりとした身体をきつくきつく抱きしめた。






生まれてきてくれて―――。


「ありがとな、つらら」






幸せに包まれる、睦びの月の十一日。








 

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