創作 弐

□長夜の愛重
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「いやぁ〜実に立派な佇まいじゃないか、ねぇ島くん!さすがは由緒ある旅館だ!!」

「そ、そうっすね・・・」


山腹に立つ一軒の温泉旅館。

そこに清十字怪奇探偵団はいた。


「ちょっと〜、マジで出そうなんですけど・・・」

「な、なんか見た目が・・・」

「何を言っているんだい、君たち!出るに決まっているじゃないか、ここは古くから座敷童が頻繁に目撃されている旅館なんだから!!」


清継はまるで己の才を語るように胸を張り言う。

だがやはりここで黙っていないのが、怪奇探偵団に属するも妖怪に一切の関心を持たない巻と鳥居。


「はぁ!?聞いてないんだけど!!」

「え?ここ、そういう所なの・・・?」

「ふざけんな!うちらは“親戚の伝で高級旅館に泊まれる”って言うから、せっかくの連休にわざわざこんな山奥まで来たのに!!」


最早悲鳴に近い二人の言い分にも、やはりと言うか当の清継に大して気にした様子はない。

そしてそれに苦笑するのは・・・。


「座敷童だって。ねぇ、つらら、知ってる―――」


突然知らされた、今回の旅行の真の目論見に苦笑したリクオは隣を歩く側近に振った。

が・・・。


「やだ・・・座敷童って本当にいるのかな」

「カナちゃん」


隣であからさまな恐怖感を見せているのは幼なじみの家長カナ。


「大丈夫だよ。座敷童は悪戯好きだけど、人に危害を加えたっていう話はあまり聞かないから」


民間信仰では、家の盛衰を司る者として崇められる存在でもある座敷童子。


「リクオくん、詳しいね」

「え?あ、うん、まぁね・・・」


リクオはカナの言葉に曖昧に笑って、辺りを見渡した。


(つらら・・・?)


「もしかして、及川さん?」

「え?」


側近の姿を探し首を巡らせていると、カナが言った。


「あ、うん。どこに行ったんだろう・・・」

「さっきトイレに行くって言ってたけど・・・あ!あの売店の所にいるの、及川さんじゃない!?」


突然、カナが頓狂な声をあげある方向を指差す。

するとその先には確かに彼女の姿があった。

ただし、一人ではなかったが・・・。


「ねぇ君、どこから来たの?可愛いね、一人?」

「いえ・・・」

「俺たち、ここら辺はよく旅行に来るんだ。いいスポット知ってるから、よかったら一緒に回らない?」

「いえ、連れがいますので・・・」

「女の子?ならみんなで一緒に行こうよ!」


友人と語らう主に声をかけることは憚られ、かと言って誰にも声をかけず離れるわけにはいかないと彼の幼なじみである家長カナに一言かけその場を離れたまではよかったが、用を済ませたところで数人の旅行客に捕まった。


「女の子なら大歓迎だよ、人数多いほうが楽しいしね?」

「―――悪かったね、女の子じゃなくて。彼女、ボクの連れだから」


その時。

つららの手が引かれ、身体が傾いだ。


「リ、リクオ様ッ!?」

「こっちはもう人数足りてるから。まだ何かある?」

「あ、いや・・・」


有無を言わさぬリクオの眼光に、それまでつららを囲っていた男達の輪が掃ける。


「行こう、つらら」

「は、はい」


掴まれたままの腕を引かれ、つららは慌ててリクオの後を追った。


「申し訳ありません、リクオ様」

「つららに何もなくてよかったよ」

「はい!ちょっと困りましたけど、リクオ様が来てくださったので大丈夫です。またしっかりと、リクオ様をお守りいたしますね!」


いつかの捩眼山の時のように、やたらと主の身辺警護に力を入れている今日のつらら。

まぁ本家を離れ、慣れぬ土地に来ている以上、側近である彼女にとっては至極当たり前のことなのだろうが・・・。


「私がしっかりと若をお守りします!」

「まずは自分のことを守ってほしいんだけどね・・・」

「はい?」

「いや、なんでもないよ」


リクオは笑って繋がれた手を離した。

自分達に様様の視線を向ける清十字団に謝罪の言葉をかけながら、リクオはこれから先の旅の安泰を切に願うのだった。






夕食を済ませた面々は、早速この旅館自慢の露天風呂へと期待を膨らませる。


「まぁ、今のところ座敷童も出ないみたいだし?」

「たまにはこういうのもいいかもねー」


上機嫌は言わずもがな巻と鳥居。

カナはそれに笑って、つららはきょろきょろと笑顔で辺りを見渡している。


「どうしたんですか?及川さん」


そして事ある毎にそんな彼女に声をかけているのは島。

リクオは側で一瞥くれるも下手に出られず、相変わらずの光景に静かに溜息を吐いていた。

だが唯一の救いは、つららに全くその気がないことで・・・。


「探し物っすか?」

「えぇ、でも大丈夫」


スパッと遮断される会話。

今日も清十字団は変わらない。
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