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□鎖し
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触れられるだけでいい。

側にいたいなんて、高望みはしないから。


だから―――。






お願い。

側にいさせて・・・。






夜も深まりを見せる頃。

屋敷のとある一室に、その影はあった。


「ふッ・・・ン、ぅ・・・」


敷布の上に座った男の下腹部に顔を埋めた女は、頻りに頭を動かす。


「ッ、つらら・・・」


呻くような微かな吐息。

投げ出されたような格好の主の身体はただただ一方的な快楽に震えていた。


「くッ・・・、ァ」

「ん、・・・ぅ」

「ハッ、ぁ」


―――どれだけ快楽を与えれば、あなたは私を必要としてくれますか?


「・・・うッ、・・・」


何度も重ねた濡事。

何処で感じ、如何すれば喜ばせられるかなんて手中。


「ふ、・・・んッ、リクオ様」


所詮は快楽を求めながら生きる者。

たとえそれが一過性に過ぎなくても、やがて渇いた身体が快楽を求めさ迷うことをつららは知っていた。

蜜の味を覚えたら最後、本能に忘却という文字はない。


「ぅ、あッ・・・あ、つららッ―――」

「ん、んぅッ」


それでいい。

どれだけ滑稽で馬鹿げていようと、側にいられるならなんだってよかった。

手段なんて―――。

構っていられなかった。

だから今日も、この愚劣に甘んじる。


「―――リクオ様ッ、!!」






今更想いを告げられるはずなどなかった。


「失礼します」


慇懃に頭を下げ、ゆっくりと閉じられた襖は刹那の夢心と外界とを遮断する合図。


「つらら・・・」

「久方ぶりですね」

「・・・」

「大丈夫ですよ。私に、お任せください」


物分かりの良い側近。

女はそう言って淡く微笑むと、男の衣の裾に手をかけた。


「ッ、」


皺を寄せぬようにそっと割り、引き締まった脚部を露わにしていく。

やがて指先がそこに辿り着けば、まるで何か決まり切った作業を行うかのように、確かな箇所をけれど静かに擦り上げた。


「ッ、!」

「・・・リクオ様」


なんて事務的で。

なんて単調的な行為。

愛の、欠片もない。


「ハ、・・・ッ、・・・続けて、くれッ・・・」

「・・・はい」

「うッ、ァ・・・ッ、!ハ・・・、」


それでも、一度知ってしまった快楽からは這い上がれなかった。

どんなに滑稽で馬鹿げていようとも、二人はもう引き返せないところまで来ていた。


「つららッ、」

「ん、・・・んぅッ」

「・・・つららッ!!」

「リクオ様ッ・・・!!」

好きだッ

好きッ






愛の無い―――否、愛の見え無い情交に、言葉が存在するはずが無い。








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