創作 弐

□甘美と誓い
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「甘い、です・・・」

「だろうな」


頬を朱に染め視線を逸らすつららに、リクオは口元に笑みを浮かべ答えた。


「次はオレだ」


そして満足げにそう呟くと、手にした箱からチョコレートを一つ取り出しそれをつららの掌に置いた。


「う・・・」

「つらら」


言葉に詰まるつらら。

それを眺めるリクオ。


「・・・リクオ様ッ、あの―――」

「今更待ったは無しだぜ?」

「ッ、」


細い手首を掴み、冷たい指先に唇を寄せる。


「・・・食わせてくれるんだろう?」

「ッ、」


夜半。

妖の姿となった彼に、つららはチョコレートを渡した。

昼の彼に渡したものとはまた別なる、甘さの中にも確かな苦みのある甘美な菓子を―――。


「リクオ様・・・」

「・・・あぁ」


つららは縋るようにリクオを見つめた。

けれどそんな視線にも、リクオは飽くまで知らぬ振りを通す。

それどころか彼女が羞恥に身体を強張らせる度、それを楽しそうに見遣るから充分に質が悪かった。


「まだかい?」

「え、っと・・・」

「・・・あぁ。食わせるより、食われたいか?」

「ひッ―――」


刹那。

一人納得したようにニヤリと笑んだリクオの指先が、乱暴につららの持つチョコレートを引ったくった。

そしてそれを自ら口の中へと放り込んだかと思うと、リクオは間髪入れずに自分の口唇でつららのそれを塞いだ。


「ッ、!―――ふッ」


突然のことに、つららの身体が跳ねる。

堪らず漏れる吐息。

つららは思わずリクオの衣をきつく掴んだ。


「ン、」

「・・・ッ、」


互いの口内を行き来するチョコレート。

だがそれは、熱を持った舌の上ではいつまでも同じ形を保ってはいられない。

どろどろと甘ったるい香りを放ち、次第にゆるりと溶け出した。


「んッ、ぅ・・・」


口の端から落ちる液を、透かさずリクオが舌先で舐め取る。


「やッ、―――んん」

「ハッ・・・」


チョコレート一つで、今まで幾度となく交わしてきた口づけが、何倍にも、何十倍にも甘く感じられるのだから不思議だ。


「ん・・・」


酔いが回るように、脳髄を甘さに侵される。

甘さの中にも確かな苦みのある甘美な夜が今、始まる―――。








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