捧げ物・頂き物

□休日のおやすみ
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「おはようつらら」

「あらリクオ様、今朝は早いですね。」


奴良組本家の自室から顔を覗かせば、庭では側近の氷麗が洗濯物を干していた。


「せっかくのお休みです。もっとゆっくりなされても…」

「せっかくの休みだから、無駄にしたくないんだよ。」


今日は祝日。

いつもなら学校に行くリクオも今日は家でのんびり出来そうだった。


「じゃあ朝ご飯の準備も出来ておりますし、行きましょうか」

「うん、つららが作ったの?」

「はいっ。私は今日おひたしを作りました。」


今日の天気は晴れ…。

庭に咲く花々は嬉しそうに咲き誇っていた。


「はい、どうぞリクオ様。」

「…見事にカチンコチン…」


こうしてふたりの休日は始まった。


**************


陽も登り暖かい風が吹き始めた午前10時。

リクオは自室に戻り勉強に励んでいた。


「ファイト♪リクオ様♪ファイト♪リクオ様―♪」

「あのさ、つらら…」


カリカリとペンを動かす横で、さっきから自作の応援歌を歌う氷麗。


「それ…ずっとやってるつもり?」

「はい、若の応援なら得意ですから。」

「いや…その気持ちは嬉しいんだけどね…」


正直言うと勉強に集中出来ない。


「じゃあさ、つららはお絵かきでもしてたら?」

「へ?」


思い付きなアイデアだったがどうやら上手くいったようだ。

教科書の横で描き始めた落書きはみるみる増えていき氷麗も夢中になっているようだった。

やがてリクオも勉強の世界へ入っていき気が付けば短針は11を越えていた。


「ふぅ〜終わり〜と。つらら、終わったよ」


すると、彼女は眠ってしまったらしい。

机に伏した顔を覗けば長い前髪が呼吸に合わせ顔を撫でている。

起こすのがなんだか可哀想、そう思っていた。


「リクオ、お昼ご飯そろそろ出来るわよ。」

「あ、は〜いお母さん」


昼食の知らせを終えた母親はうふふと笑い去っていく。

仕方なく氷麗を起こそうにも、いつも起こしてもらっている故、なんだか新鮮な気分だった。


「つらら〜お昼ご飯だよ〜。」

「ん…んん…」


ゆっくりと開けられた眼、ほどけ掛けたマフラーを直しながら起き上がった彼女は目が合うとあわててこう言うのだった。


「はっ!!私、若が勉学に励んでいる横で眠るだなんて…申し訳ありませんっ!!!」

「いいのいいの、ほら、ご飯食べに行こ。」


なんだかんだ言って彼女は真面目。

こちらが優しく止めなければ彼女はいつまでも自分を責めてしまうことをリクオは知っている。


「わ、わか、待って下さい〜。」


**************


「で…午前中うたた寝したつららなんだけど」


午後の縁側には太陽の陽がサンサンと降り注いでいた。

そこに干された羽毛の布団。

その上で寝息を起てているのは氷麗だった。


「昼ご飯食べて僕がさっきトイレから帰ってくればこうだったわけ」

「あらあら、つららちゃんもお疲れなのよ。」


庭先に干された洗濯物を回収している母親はまたうふふと笑う。


「いつもリクオに付きっきりだからお手伝いも休んでゆっくりしてって言ったのに、今朝も朝ご飯のために早起きしてたのよ。」

「そうだったんだ…。」


横ですやすやと眠る彼女には休みなどない。

いつも三代目側近頭として自分を守ってくれる彼女。

今日1日くらい休んだってだれも文句は言わないはずだ。


「リクオもたまには夜も寝なさいよ。最近は散歩ばっかりじゃない。」

夜…自分は妖怪となる。

顔も髪も性格も違うけれど、それは間違いなく自分。


「はいはい、夜の僕に言ってもきっと聞かないもんね。」

「ん…わか…」

会話が五月蠅かったか、氷麗は目を覚ました。

直ぐに状況を理解するとまた彼女は言う。


「ま…また私若の横でうたた寝を…あ、若菜様洗濯物ならわたしがっ…」

「いいのよ。つららちゃんは今日はお休み。」


そう言って本日三度目の笑いを残し去っていく母親。

氷麗ははあ…と溜め息混じりに言う。


「私、今日1日怠けてばっかり…」


いつもなら掃除洗濯料理に側近とこなす彼女にとって、二度も主の横でうたた寝をした自分が許せないのだろう。

そういうところが彼女の真面目さと云うか彼女が主をどれだけ大切に思っているかが分かる。


「ねえつらら、たまにはさ息抜きも大事だよ。」


それ故に、彼女の生活を支配してしまっているのは自分。

たまには彼女の好きなように過ごしてほしい。


「わ、私は、若の側に居られることが一番ですから…。」


こんな風に、さらりと深みある言葉を言ってしまうのも彼女の個性、魅力。


「う〜ん…じゃあ、お昼寝でもしようか。」

ちょうど干されたぽかぽかの布団もある。

せっかくの暖かい日差し。

絶好のお昼寝日和だった。


「わ、私今まで寝てたんですよっ。それに若とお昼寝だなんて…」

「僕が言ってるんだからいいの。はい、おやすみ〜」


ごろんと寝転がれば微かに香るお日様の匂い。


「では…お言葉に甘えて…。」


一瞬ひんやりとした空気が顔を撫でたが、やがて暖かい風が再び顔を撫でる。


「わ〜か〜…」

「ん〜?」

「なんでもありません〜…」

「んん〜」


縁側にふたり

庭先には蝶が舞う


「おやすみ〜…」


並んで眠るふたりにはまだ距離がある。

その距離がなんだかもどかしくて、それでも…ふたりの顔は嬉しそうに微笑んでいる。

そんな休日の庭先はなんだかいつもよりも暖かい風が吹いている気がした。

まるでふたりを包み込むように―…。










***************


「やれやれ…もうこんな時間じゃい。おや、いいのう若いもんは。ハッハッハッ。」
 

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