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□どちらも、なんて
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「妖怪のことは妖怪のオレに任せろと言っただろう?その代わり、人間のことはお前に任せたはずだぜ?」
「た、確かにつららは妖怪だし、キミも妖怪で・・・ボクは人間だけど・・・それでもつららは人間でもあるボクのことを信じてくれたんだ!」
互いに一歩も譲らないこの姿勢は、もうかれこれ一時間は続いている。
「―――そういうわけだ、だからお前は人間と仲良くしてろ。・・・そうだな、例えばカナちゃんとか―――」
「なッ!ど、どうしてここでカナちゃんが出てくるんだよ!!」
「どうしてって、相変わらず仲良くやってるんだろう?なぁ、つらら」
「・・・」
「ちょ、つらら!?」
肯定もしないが否定もしないつららに、驚愕したリクオは目を見張った。
時は夕景。
沈みゆく橙色の太陽と、薄雲に隠れた上弦の月。
二つが共存するこの夕映えの空の下に、共生し得ない二つの影が並んでいる。
「どういうことだよ!?」
「・・・それはお前が一番よく分かってるんじゃねぇか?お前が戻ってくるのを一人で待ってたこいつの気持ちを考えたら・・・やっぱり妖のことはお前には任せられねぇ」
「ハゥワッ!?」
そう言って妖姿のリクオは隣に小さく腰掛けた側近の肩を抱き、ぐいっと自分のもとへ引き寄せた。
「ッ、なにやってるんだよ!近いよ!離れて!」
一方、人の姿のリクオはその様子に慌てて腕を伸ばす。
「ごめんね、つらら。ちゃんと連絡すればよかった」
「いいえ!私が何も言わずに買い出しに出てしまった所為で―――」
「違うよ、それはボクが―――」
「そんなことはどうでもいいんだよ。・・・まぁ結果的にそんなお前に失望したつららを慰めたのはオレだから―――感謝するべきか?」
「な、慰めた!?」
「リ、リクオ様!!失望などとはッ―――」
妖姿のリクオの言葉に人の姿のリクオは素頓狂な声をあげ、つららは慌ててそれを制した。
「なんで赤面してるのさ、つらら!」
「え?・・・あ、えっと、これは―――」
「それを聞くのは野暮ってもんだぜ?赤面するようなことっていったら一つしかねぇだろう?」
「えぇぇぇ!?」
「リクオ様ッ!!」
「なんだい?本当のことだろう」
いよいよ収拾が着かなくなった三人の言い合いに、妖姿のリクオだけがのんびりとそんなことを言い放つ。
そして何かを思いついたように、彼ははたと動きを止めた。
「リクオ様・・・?」
「そうだな・・・。おい昼のオレ」
「な、なに?」
「勝負しねぇかい?」
「しょ、勝負・・・?」
「あぁ。オレとお前と、どっちがつららに相応しいか―――」
「ふ、相応しい!?」
数日前。
“文字通り良い奴、奴良リクオ”の本領を発揮していた彼は、例の如く学友から日直当番を引き受け奔走していた。
それに手伝いを申し出たのが、彼の幼なじみである家長カナ。
いつもは彼の側をついて離れない少女が今日に限っての不在。
それはカナにとって最大の好機だった。
そしてその場を、思いの外時間を要してしまった買い出しから戻った側近が目にしてしまい―――夜半、気落ちした様子で酌をしていた彼女に事情を知らぬ妖姿のリクオが問い質したのだ。
何かあったのか、と。
すると初めは渋っていた彼女もだんだんと柔らかな口調に絆され、やがてぽつりぽつりと語り出した。
その結果がこれである。
「つらら」
「へ!?」
「お前は昼のオレと夜のオレ、どっちが好きだ?」
「え!?・・・あの、」
「ちょっと、夜のボク!つららが困ってるだろ!?」
眼前にずいっと迫られ、つららは反射的に妖姿のリクオから身体を引いた。
だがそれを逃すまいと彼の手が彼女の腕を捕らえるから、人の姿のリクオから叱責が飛ぶのだ。
「いえ、あの・・・どちらの、と言われましても・・・人のお姿であっても妖のお姿であっても、どちらもリクオ様であるというか・・・」
「それじゃあ埒が明かねぇな」
「そ、そうだよ!つららの言う通りだよ、キミだってボクだろ!?」
「なんだ?自信がねぇのか?昼のオレ」
「な―――ッ、」
余裕を持て余したように妖のリクオが問う。
「そ、そんなわけないだろ!―――つららッ!!」
「は、はい!?」
「つららはボクと夜のボク、どっちが好きッ!?」
「えぇッ!!?」
つららが瞳をぐるぐるとさせながら調子外れな声をあげれば妖姿のリクオの口端が笑む。
だが、全ては彼の思惑通りと気づく者がいるはずもなく・・・。
「よし、お前が気にしていた赤面で勝負するか?」
「・・・は?」
「昨日の晩、どうして赤面したんだい?つらら」
「ハゥッ!!」
「―――お前はここが・・・好きなんだよな?」
妖艶な声音に。
「あッ、」
「ちょっと、昼のボク!!」
鳴る。
了