BSR

□姫の真実
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***

「まったくっ…腰が痛くて敵わんっ!」

元就は歩く度に痛む腰に手を当ててさする。
初めてのことで体が緊張していたのだが、元親が丁寧に解し行ってくれたおかげもあり動けないほどの痛みではない。しかしそれにしても歩みを進める度に痛む腰にはつい眉の間に皺が寄ってしまう。
元就は手の腹の部分で腰をさすりながら想う。


ー体、大丈夫か?」
元親は元就の肩に自分の服を掛けながら問う。
「っ…大丈夫なわけ無かろう!」
元就はその故意を無造作に受け取るとふらつく足取りで立ち上がる。
「おい!まだ寝てた方が…」
「うるさい!体が火照って寝てなどおれん!夜風ぐらいあたらせろ!」
元親の伸ばしかけた手を振り払い、そう言いながら窓の方へ歩く。
「元就、おまえ…」
「気安く名を呼ぶな。」
自分が最中に呼んだことは覚えていないのか、と元親は苦笑する。そして
「もう一回ヤっとくか?」
と言い、心の中で冗談だけどな、と付け加える。
「ふ…ふざけるな馬鹿者!」
すぐに返ってきた怒声に元親は乾いた笑い声で返す。
「何を笑っている?」
体が火照っているというのは元親の側から離れたいという嘘では無いのだろう。少し赤らんだ顔が元親の方へと向けられる。

半月よりも豊かに、満月には満たない月が元就を後ろから煌々と照らす。薄い茶色の髪と白く透明な肌が月明かりで輝いて透ける。
あぁ、と元親は小さく溜息をつく。
ようやく分かった、
本当の宝。


「きれいだ…」


元親があまりに真面目な顔を自分に向けてそんなことを言うので元就は目を合わせていられなくなる。
「ふ、ふんっ…戯れ言をっー


確かに腰は痛い、が。
(我が綺麗だと…?)
元就の心がざわめく。
−なんだこれは…あやつのことを考えるとどうにも苛々とし落ち着かなくなる。そういえ ば…昔前田の甥っ子がこのような気分のことを…
「くだらんっ!」
元就は自分の行き着いた答えに慌てて打ち消すかのように言葉を吐き捨て、腰をさする手を外し自軍の城門を押す。門は木の擦れる重い音を鳴らし、少し抵抗を持ちながら開く。

−と。

客室の方から何か叫ぶ声が聞こえてくる。内容こそは分からないが揉めているらしく、頻繁に何かを説得するような大声だ。
自室に戻ろうとしていた元就は眉をひそめ歩む方向を転換する。
(くっ…我の了承もとらずに客を上げ、その上揉めているとは…)
そして痛む腰を我慢し早々と客室へと向かう。
客室の障子の前には自軍の兵士たちがこれでもかと言うほど集まり中の様子を覗き見ようと群がっている。
「何をしている貴様ら!仕事に−」
「だ−か−ら−!もう心も体も俺が頂いちまったんだから後はあんたらの承諾だけだって言ってんだろ!?」
仕事に戻れ、そう言おうとした元就の言葉を遮ったのは。
「な、何故あやつの声が…!?」
元就は勢いよく障子を左右に開ける。
「!よぉ元就!」
言葉を遮ったのは、熱く体を重ね、少し前に別れたはずの長宗我部元親当人であった。
「な、何をしている!?」
あまりの驚きに名前を呼ばれたことに気が付かない元就だが、家臣にしてみれば名前で呼び合う中になったかのように見える。
「何って…お宅の娘さんを嫁にください、ってやつ?」
「だ、だから元就様がお前みたいな奴のことを好きなわけないだろう!元就様!何とか言ってやってください!」
元親と向き合って座っていた家臣、やはり誰だか分からないが、が机を叩きながら元就に言葉を求める。

が、
「あの…元就様…?」
元就は答えない。放心したように元親の顔を見つめたままでいる。
「おい、どうした?元就?」
流石に心配したのか元親も腰を上げ元就の前に屈み訝しげに顔を覗き込んでくる。
「え?…あ。」
気が付いたのか周りにいる家臣を見渡す。そして目の前にいる元親にも気が付く。
「っ!べ、別に好きじゃない!」
顔を真っ赤にし震える声で言ったそれは当にツンデレ。
予想をしていなかった元就の言葉に周囲はしん、と静まる。しかし家臣達、そして元親の脳裏には恐らくこれ以上ないほどの花畑が広がっていたことだろう。

がたん、と誰かが立ち上がる。手で紅い鮮血の滴る鼻を押さえ叫んだ言葉は。
「手、手洗いに行って来ますっ!!」
それを引き金に家臣達は
「元就様ー!」
「一生ついて行きますっ!」
などと好き勝手に叫びながらトイレへと走っていく。
それ程までに先程の元就は可愛かったのだ。
「…おい。元就…」
周りに自分と元就だけしか居ないのを確認すると元親は口を開く。
「お前、」
そしてまだ顔の赤い元就を抱きしめる。


「可愛すぎ。」


***

こうして元就の嫁取り問題はいわば婿取りとなったのだが、毛利・長宗我部両軍の家臣に反対されることもなく健全ではないお付き合いをすることとなった。
噂では『元就様ふぁんくらぶ』が出来、会員数は四桁を上回っているそうだとか。
元就の可愛さは恋をした時初めて開花したようだ。
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