□最愛。
1ページ/1ページ



「私も同じことを思っていたわ」
「ホークアイ少尉も?」
私も同じなのよと語りかけるように微笑むと、ハボック准尉はそんな私を受け止めてくれるような微笑みを返す。このひとはあたたかい。ひどく落ち着くそれは、素直にならざるをえない。
私も准尉も、同じ思いを抱えて、同じ痛みを感じて。今日も軍服に袖を通し軍靴を鳴らして此処に居る。
准尉の声色が、横顔が。私がマスタング中佐のことを語るときに決まって彼が見せるそれだった。
「あの人に出会って、どうッスか?」
准尉は私の目を見ずに問うた。その目がどこを見ているのか、私にはわかる気がしていた。
会話をする時に人の目を見て話す准尉が、それをしないのもまた、私の傷にしみ入ってくる彼の優しさであったりした。だから思う。ハボック准尉はきっと知っているんだ。私がどんな瞬間に瞳の奥の気持ちを見抜いて欲しいのか。どんな瞬間に瞳の奥に気持ちを隠したままで居させて欲しいのか。
彼の煙草の香りが、また、ひどく落ち着く。
私は不器用に微笑みを返すと、ぽつりぽつりと言葉をこぼしていった。彼がすくってくれるのを知っていたから。
准尉は相槌を返すことはなく、聞き入り、そして考え込んでいる様子だった。
最後に、本望だ、と告げると准尉はむりやり微笑う。
「惚気ッスか」
惚気にしては、かなしみが過ぎる。
「ただの上官自慢よ」
自慢にしても、誇りに満ちている。
「俺も自慢しておこうかな」
私はまた微笑んだ。ポーカーフェイスを決め込むこの場所で、こんなにも微笑みを返せる相手は珍しい。とても大切だ。
ハボック准尉はマスタング中佐を語って、私の名前を挙げた。驚いて准尉を見ると、彼は「自慢の上官だ」と笑った。准尉の存在はとても心強い。私の支えだ。
此処に立っていたい理由は、マスタング中佐にあるのだけれど。此処に立っていられる理由は、ハボック准尉にあるのだと。こうした瞬間に気づかされる。
「私にとっても貴方は自慢よ」
私はマスタング中佐が居なければ生きていけないが、もう、気がつけば、准尉が居なくなってもーー。
「ところで言葉の端々から“I need you”って、痛いほど伝わってくるんスけど、」
「ハボック准尉に伝わるほどなら、あの人はきっと知っているのでしょうね」
「…死なんでくださいよ、」
とうてい無理な話だと理解しながら、それでも言葉にしてくれたハボック准尉に、私はどこまでこたえられるだろうか。
「上官自慢はここまで。次はほんとうに惚気てもいい?」
「え?」
「“I love you”って、伝わっている?」
そうして最期に、本望だ、と告げて、むりやり笑って魅せる。



【END】


ここまで読んでくれてありがとうございます。このページには、おもしろく言葉を並べられたと思っております。
読み手によって、I need you、I love youの相手が変わることを願っています。マスタング中佐。ハボック准尉。ロイ。ジャン。誰をあてはめて読んでいただけたのか、楽しみです。
書き手が意味を持たせたのではなく、読み手に意味を与えていただきたい言葉たちを。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ