□二人
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ぎっしりと並べられた文字とずーっとにらめっこ。眉間にしわが寄る。リザが近付いてくるのは気配でわかっていたものの、不意に触れられると驚く。
「え、…なんだ?」
いつまで経ってもリザから触れられることに慣れない。それが滅多にないことも慣れない理由の一つだが、私がリザにすっかり参っていることが、やはり大きいと思う。
リザは私の眉間に触れていた。愛しむような微笑みとともに、優しい指先が眉間のしわを解してくれる。
指先が離れていき、私は残念に思った。
「吃驚した」
無意識に私は眉間に手を伸ばし触れられたところを触っていた。
「将来しわになります」
「ほう。君は私の将来の、そんな些細なことまでも考えてくれているのか」
嬉しさのあまり、少し意地悪をするように言ってみると、彼女は微笑みを深めながら「貴方は世話の焼ける方ですから」と返した。
私にはしわくちゃのお爺さんとお婆さんになった自分とリザが笑いあっているのがみえて。
それはきっと幸せで、泣きそうだ。
「難しいことを考えてつくるしわより、笑ってできるしわのほうが、すきなんです」
タイミング良くリザの声で“すきなんです”なんて届くから。「リザ。すきだよ」
鳶色の瞳が大きく見開かれて、頬が桜色に染まる姿は美しかった。
「だいすきだ」

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