□雨とキスと涙
1ページ/1ページ
「貴女が正しく舐め合った傷を、俺が責める筈が無いでしょう」
さも当たり前の様にそう言う恋人を疑うように信じるように見上げた。鷹の眼と呼ばれる私を射抜く様な眼に出逢うのは二度目。
「傷の舐め合いに正しさなんてあるのかしら」
「相手が、あの人なら」
あの人と嫌う雨にうたれた、傷が痛んで仕方のない夜の道での出来事。拳銃を握り引き金をひく私の手が、指が。あの人の黒髪に触れてしまった。
頬を濡らした雨とキスと涙。
「貴女の傷を、舐めれるのは、あの人しか居ないでしょう」
貴方も葛藤を眼の奥に押し込み隠しているのが理解る。それを暴かないのは、似ているから。
私を愛してくれて、ありがとう。あの人をゆるして、守ってくれて、ありがとう。
青いその眼に救われ、そして愛している。
すがるように、私の肩に顔を埋めてくる。
「俺だと、貴女の傷を、引っ掻いてしまいそうで」
「うん」
「こわいから」
私はジャンの背中に腕を回して優しく包みこんだ。貴方は貴方の愛し方をいつだって貫いていた。
「抉られたって、構わないわ」
私も私の愛を貫く。言葉を紡ぐ私の瞳は涙目になっていた。いま私の眼は鷹の眼と呼べるものではなく、ただ純粋に貴方だけを見ている。
傷付けて、傷付けられて。抉って、抉られて。貴方と関係する事に命をかけている。
私の腕の中で貴方がピクリと動いた。肩に埋められていた顔が離れていくのを見つめながら、貴方が震えている事に気が付いていた。貴方にも傷が有る。私が其の傷に触れたら、どうなる?
傷を舐め合った夜。抉り合うこの瞬間。違った涙の味がするキスをして。角度を変えて何度もして。夢中になって。狂おしいほど愛してる。
正しく舐め合う傷は誰も何も咎められない。