□いもうと
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女部屋から可愛いデザインのものをわざわざ選んで持っていく。ヘアブラシと、ヘアアクセサリー。
「サンジ君」
名前を呼んで、それを差し出せば。私よりも背が高いあいつが私を見下ろして、視線を合わせたら、言葉なんて無くても2人は通じ合える。
サンジ君も微笑んで、私の手からそれを受けとると、嬉しそうにすぐに行動に移してくれる。
ヘアブラシを渡すのは、これで髪をといて欲しいと言うこと。ヘアアクセサリーを渡すのは、これで可愛くして欲しいと言うこと。言葉にしなくてもサンジ君はちゃんと、理解してくれる。
***
サンジ君は後ろから時々、他愛もないことを話しかけてくる。手を止めないところはさすが。
髪をといて貰って気持ち良い。
後ろから届く声が心地好い。
どちらも相手がサンジ君だから、こんなにも安心できて。信頼して。頬がゆるむんだけれど。
「なにやってんだ」
2人で過ごしていたい。そんな気持ちをどんなに抱えても、この船で邪魔者がやってこないなんて日はない。
私たち2人を見て、ゾロは呆れた声で言った。
「…それくらい自分でさせろ」
「うるさいわね。自分で出来る。けどサンジ君にして貰いたいの!」
ゾロはため息を吐いて、私に言っても無駄だと思ったのか、サンジ君へ向けた。
「お前はナミを甘やかせすぎだ」
「いいじゃねェか。甘えて貰えるなんて光栄だ。妹みたいで可愛いぜ」
「…」
ゾロに何か言い返そうとしていたのに、サンジ君の言葉で止まった。妹、って。
ゾロは私の変化に気付いたのか、それ以上は何も言わずに面倒事を避けるようにどこかへ行ってしまった。何しに来たのよまったく。
対してサンジ君は、こういう時、鈍感。
「…妹、なの?」
「…え?」
気になって仕方がなくて。問いかければサンジ君はまるで解っていない様子で。
「さっき。妹みたいで可愛いって言ったじゃない」
「あァ、あれ。おれに妹が居たらこんな感じなのかな、って。ナミさんもマリモの言うことなんて気にしないで、これからも甘えてね。お兄ちゃんだと思ってくれてもいいし、」
「私はお兄ちゃんなんて欲しくない!!」
サンジ君が髪をときやすいように、背中を預けていたんだけれど。気が付けば私はサンジ君に向き合っていた。
「…ごめん」
「…」
謝って欲しいんじゃない。ただ、否定して欲しいの。私はあんたの妹になりたいわけじゃないから。
目をじっと見つめても、この気持ちが通じることはなかった。
「おれなんて、要らない?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
甘えるのは妹として受け入れられているの?
頼るのは妹だからゆるされているの?
「…要るわよ、ばか」
あなたを要らないなんて、言えるわけないじゃない。
私の負けだ。
妹はお兄ちゃんには勝てなくて。
先に惚れたほうが負けで。
切ないし悔しいけど、あなたを要らないと言う嘘の苦しみに比べたらマシだわ。
「お兄ちゃんは要らないけれど、あんたは要るわ」
ねぇこんなに素直になってるの。だからはやくご褒美をちょうだい。