Sacred Vampire of Crescent.

□Monarch of a despotic state.
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「そうか、では下がれ」

「は、はい…」

ルーファウスはヴィンセントがここに来るという報告をしてすぐ、退室を命じられた。





「 ……。 ……まさか、そんな事が、あろうはずもない…」

ルーファウスは椅子に腰かけ、ようやく沈黙を破った独り言が、それだった。

「…そんなはずは、ないのだ…。でなければ、私は…」










「…」

「………」

ヴィンセントが入室してもう数十分この不毛な時間が過ぎているように思う。

だが、腕時計を見やればまだ数分だった。

(…服装こそ王族らしからぬが、この威厳…荘厳な威圧感…)

そう、ルーファウスの前に膝ついているのは、漆黒の服、深紅の外套に身を包んだ美しき吸血鬼。

その様子は普段の可愛らしさなど微塵もなく、ただ謁見に来ているのが自分の方であるかのような錯覚さえ抱きかねない程に凛としていた。

今は膝をつくヴィンセントこそがルーファウスを見上げる立場にあるのに、遥か上の玉座から見降ろされているかのような気高さ、荘厳さはまさに王族のもの。その一挙一動の所作さえも。

(言葉が出ないのではない…まるで、発言を許可されていないかのような…)

ルーファウスの額に汗がにじむ。
それを気付かれないように、その緊張を表情に出すまいと、佇まいを正して話を切り出す。

「…私はルーファウス神羅。貴方は…ヴィンセント・ヴァレンタインだったな?」

「…そうだ。プレジデント殿は居られないか?」

「…父は、200年ほど前に崩御した」

「そうか…申し訳ない事を言ったな…」

ヴィンセントは、その美しい表情に苦悶を浮かべて俯く。儚げなその様子は、女性を泣かせる寸前の様な気分にさえさせる。


「して…今回はどういった用件で?」

領主として上から。あえて敬語を使わない。
相手は間違いなく王族。自分たちを率いてくれる「姫」に違いはなかった。
だが、それを認めてはいけないと、彼の意地が叫ぶ。

だから、互いに大した敬語を使わないのにルーファウスはヴィンセントを咎める事をしない。

(…よりによって王族の真似ごとなどできるはずがない。第一、王族騙りは死罪だ…。
目の前の人は間違いなく…だが…)



…認めては、いけない気がしたのだ。
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