Sacred Vampire of Crescent.

□Fantasy was true.
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「あああああああああああああ!」

「やめっ!ぎゃあああああああ!」


「それら」の動きは今は緩慢だ。

だが、人々は恐怖に体を満足に動かす事が出来ずに、つぎつぎと捉えられ、捕食され、用済みとなった人はつぎつぎと殺される。


「ひぎいいいいいいいいいいっ!」

やがてその様子がエスカレートしてゆく。

まるで血の色とにおいに鮫が狂乱状態になるのと似ている。

理性などない、ただ血を感じて興奮し、味方さえも殺し始める。
餌としてではなく、ただの殺戮の玩具として。


「…こりゃあ…」

「既にこんな状態に…」

「畜生、こんな大混乱じゃ、無事な人間と屍鬼がよくわからねぇよ!」

生きている人間は逃げまどい、襲われ、屍鬼は人間を襲う。

だが奴らの見た目は人間なのだ。
倒れ、転び、乱れ、血にまみれた大勢の人間がいる中で、どっちがどっちかを見定めながら戦うのでは手遅れになる。

「奴ら、どんどん増えるぜ!早く何とかしねぇと!」

「わかってるぞ、と!」

「我々が見かけたときには数える位しかいなかった…」

それが、シドを呼びに行っている間にこんなになっていたなんて!

そんなこと、…誰が想像できたであろうか。










そんなシドたちの視界の端で、鋭い一閃が人ならざるものたちを一度に切り捨て薙ぎ払う。

「ぎいっ!?」

その時、血のように紅く染まった満月を背後に、近くの教会の屋根に凛とした姿が現れる。

「…そこまで、だ」

心地の良い低音が、夜の闇を幻想的に震わせる。

「…お前たちの様な、吸血鬼になりきれなかった存在に銀の弾丸など使うまでもない」

ふわ…っと、紅いマントをまるで姫のドレスのようにはためかせながら、その存在は地に降り立つ。


「私がせめてお前たちに安らかな眠りを与えよう…。
常世の闇に眠るがいい。そして次こそは、幸福な人生を歩んでくれ…」

紅の外套、漆黒の服。
幻想的なその麗姿、美しい長き黒髪、紅に支配されたこの世界で最も澄み通る深紅の瞳。




現実からかけ離れ過ぎている、その美貌――…。
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