Sacred Vampire of Crescent.

□Not visible without love.
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「ルード、一気に決めるぞ、と!」

「…ああ」

ツォンがここに来たときの状態のまま、今は対峙している。ただ、ツォンがいま立っている場所は窓際だった。

ここは5階。肉体は人間であるツォンが落ちたら助かるわけがない。
例え吸血鬼の使い魔となった事により、防御や攻撃面での身体能力や肉体的構造が強化されていようとも、だ。

「…冗談じゃない。私は、こんな所で…!」

ツォンが引く事を捨てて構えを取る。

気高き上級貴族の使い魔として、主に恥をかかせ顔に泥を塗る様な戦い方などできない。
そうでなくとも、ツォン自身の誇りが逃げる事を選択肢から除外していた。


レノが疾駆する。ルードが力強く迫る。
ツォンは二人がどう来るか見定めるために身動きするようなことはしない。


「させませんよ!」
「!?」

いきなり背後から気配と大声がやってきて、レノはツォンをルードに任せて反転して応戦しようとする。

素早い増援者は、レノの電磁ロッドを見て大きくよけようとする。そしてその身軽さのまま強烈なパンチをレノに叩きつけようとして、レノが受け止め硬直した。

「イリーナ!お前もか、と!」
「ブルータスよ、お前もか!みたいなこと言わないでくださいレノ先輩!」


一瞬であろうと動きが拮抗して硬直した事により生まれた対面時間。そして見えた顔は、レノ達のかつての後輩であるイリーナだった。

「タークス、この場に集結…か」

ツォンが苦笑しながら言う。

「まさかこんな形で顔そろえるなんて思わなかったけどな、と…」

「…懐かしいな」

口々に言う。
皆、一旦拳を引いてツォンの傍らにイリーナが立ち援護体勢を取っている。

「でも、あれ?イリーナは誰の使い魔なんだ?ツォンさんがルーファウスだろ?」

レノが当然の疑問をぶつける。
吸血鬼は一人につき一人しか使い魔を有せない。

「私はプレジデント様の使い魔だ。イリーナが、ルーファウス様の使い魔だ」

「ツォンさんは、契約を引き継いだルーファウス様の使い魔なんですよ、ほらプレジデント様とルーファウス様、親子じゃないですか」

「ああ!なーるほど、と!」

条件はシビアだが、そういう事が出来ると聞いた事がある。

引き継ぎ先が自分の子であれば、子の力が親を凌いでいれば、親が死んでいれば、既に子が自分の使い魔を有していれば、親の使い魔を子が使役する事が可能なのだ。

プレジデントの子であるルーファウスは母の血が濃く出たためにかなり造形整った男性だ。その能力もプレジデントとは比較もできない。
そしてイリーナを既に使役していた彼は、プレジデント没後すぐにツォンを得る事を考え付いた。

当時の彼にとっては、優秀な存在はありったけ有しておきたかったことだろう。
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