長編小説
□繋がれた手
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「九尾の狐!」
副長室から漏れ出てくる声。駆けつけて襖を開けると将に藤堂君が土方さんに掴みかかろうとしていた瞬間だった。
「山南さんを返せ!山南さんを……」
藤堂くんは涙でぐしゃぐしゃになった顔で土方さんをドンドン叩いた。
土方さんは申し訳なさそうな顔をして口をつぐんでいる。
いつも穏やかな藤堂君がこんなに取り乱しているのを見たのは初めてだった。
元治二年二月二十三日
山南さんは脱走の咎によって享年33歳という若さでこの世を去った。そのとき藤堂君は江戸で隊士募集のために出掛けていたから、山南さんと別れの挨拶さえ交わしていない状態だった。
同門で一番山南さんと友好があった彼にとって、私達以上にこのことが堪えているに違いないのに…………
「………藤堂君」
「なんで……山南さんは…………あなたにとって試衛館以来からの仲間じゃないですか………どうして……」
私は藤堂君の元に駆け寄って背中をさすってあげた。
そのまま藤堂君と一緒に立ち上がって、部屋を出ていく。
泣きじゃくる藤堂君を見ていると、更に罪悪感に囚われた。
「……どうか、土方さんを責めないであげてくれませんか。」
「山南さんを連れ戻したあなたになんか言われたくないです」
「………」
「何故皆さんは山南さんを見殺しにしたんです。」
「…皆さん逃がそうとしたんですよ。」
「…………え?」
藤堂君は驚いたように目をみはった。
「どういうことです?」
出来事の一部始終を藤堂君に全て話した。
藤堂君は半分涙目になって話を聞いている。
「逃げなかったんですよ…彼は彼なりに士道を貫いたんです。」
「山南さんは……馬鹿だなぁ」
藤堂君は頬を伝う涙をごしごしと擦った。
私は藤堂君をぎゅっと抱き締めた。