長編小説
□水面の舟(前編)
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元治二年
藤堂が連れて来た伊東甲子太郎の入隊のだけでも苛々としていた俺は、また新しく悩みの種を作ることになる。
「土方君、ちょっといいかい。」
俺の部屋の外で聞こえてくる声の主…それは
……山南敬介
「無理だ。」
そんな風に言ってはみたものの、山南は襖をそっと開けて此方を睨む。
「入って来るなと言った筈だ。」
不機嫌な口調で突き放すように言うと、山南はむっとしたように口をつぐんだ。
「『無理だ』とは言われたが、入って来るなとは言われていない。」
「…口の減らない野郎だぜ。」