長編小説
□酒宴
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「いい飲みっぷりじゃあねえか。」
結局勇さんを含めての大きな宴会を催すことになってしまった。芹沢はふんぞりかえって総司の様子を観察している。芹沢の隣に座った総司はすすめられるがままに酒を飲み干した。
普段あまり飲まないのに、今日は勢いが良すぎて皆も心配していた。
「あんなに飲んで大丈夫なのか?」
井上源三郎ごと、源さんは心配そうに総司と俺を行ったり来たりで見回した。
「大丈夫…だといいんだが」
千鳥足状態でよろけながら原田と踊っている総司は、もはや正常には見えない。
「腹田さんと盆踊りしまぁす」
「総司ーお前文字変換間違ってっぞー」
「総司わざとだろー」
「いよっ!腹田の太鼓腹!」
変なノリのまま、原田と総司の踊りに永倉が突っ込みを入れ、さらに野口が介入する。藤堂は遠巻きに三人を見守って(?)いた。他の芹沢一派といえば女と鬼ごっこを始めたり、いよいよ手に追えない状況になりつつある。
新見錦だけがつがれた酒を黙々と飲んでいる。
「沖田さん、そんなに飲んでええんどすか?さっきからもう九杯目どすえ。」
側にいた女は心から総司を気遣うように、総司の肩に手を置いた。
この女、総司に惚れていやがる。しかもあろうことか…本気だ。
「大丈夫ですよ。私はこれでも結構いける質ですから。」
そんなことは露しらず、総司は軽い口調で女に話をしている。
いつもの屈託のない笑顔で、にこにこ笑いながら。
「おい、沖田、もっと飲め。」
「総司、もう止めておけ。」
少し怒った口調で俺は横槍を入れた。奴は俺を無視して顎をしゃくると、女は眉を潜めたが渋々と総司の杯に酒をついだ。
総司はまたつがれた酒を勢いよく飲んだ。周りの遊女は歓声を上げて総司の飲みっぷりを称賛した。
「沖田はんって下戸らしゅうみえはるけど、随分飲みはるお方なんやね。」
「いや、アイツは下戸だ。」
芹沢は隣にいた女を抱き締めた。ニヤニヤ笑いながら総司ののみっぷりを見ている。
総司はおぼつかない足取りで水を取りに行こうとしたが、へなへなと地面に座りこみ、臥せってしまった。女は総司の元へ駆け寄ると総司の頭を女の膝元においた。
総司はほぼ正体不明にはなっているものの、なかなか女の膝元のほうへ寄ろうとしない。
「なんだ、素直に膝を借りりゃあいいじゃねえかよ。」
「それだけは勘弁して下さい。このような醜態を晒しただけで、とても申し訳なく思っているのに」
「この女は醜態とも思っちゃいねえよ。寧ろお前さんが膝を借りるのを待ちわびているぜ?なあ。」
芹沢は女の方を顎でしゃくってみせた。女は罰が悪そうに目を逸らした。
「冗談はやめて下さいよ」
「冗談じゃあねえさ」
「お前はまだ女の肌を知らねえのか。」
総司は頬を染め俯いた。
「なんでそんな言い方ばっかり…」
「じゃあ、余計面白れえ。抱いちまえよ」
「芹沢先生。そこまでにしてくれませんか。」