小説

□酔い浸れ
1ページ/3ページ

酔い浸れ シズイザ


「…っ痛ぇ」
本当に寝起きは最悪だった。二日酔いで頭は痛ぇし臨也の薬も完全に抜けていないのか心なしかふらふらする。
俺はこんな最悪な事態に陥っているのにも拘わらず(俺の)ベッドで気持ちよさそうに寝息をたてるクソ虫基 折原臨也。
「……………」
キレる気にもならねぇ。第一寝てるときにキレたら俺が寝込みおそってるみたいじゃねぇか。
…襲うか バカ
昨日の激情とは裏腹に静雄には小さな苛立ちがあった。その苛立ちは酒のせいでも薬もせいでも増してや自分のせいでもない。
全てはこの『折原臨也』という人間が犯したものだった。

だから苛つく。何でこんな奴に苛つかなきゃいけねぇんだよ。
こんなクソ虫によぉ……!!
拳は血で滲みぽたぽたと床を濡らす。

ガアァアァン!!!

俺は思いっきり床を蹴った。メキリッと音を立てて床は抉れ破片はそこら中に撒き散らされた。

「あーあ…」

「!!」
ああ…だからその顔やめろって言ってんだろうが。
そんなに俺が滑稽か?
そんなに『俺』が面白いか?
「煩いから起きちゃたよ…床どうする気?
修理呼ぶんでしょ? ああ…朝ご飯は?
お腹空いちゃってさぁ…あ シズちゃん料理出来るの?なんなら俺がやる?」
「……………………」
もう全ての感情が治まった。と言うより冷めた。
そうだこいつはこういう奴じゃないか。
俺は開き直り思い直しながらも臨也に嘘くさい笑顔を見せた。
「わ…何? 笑ってるのシズちゃん…?
おかしくなっちゃった?」
「飯作れ 薬入れたら殺す」
臨也はポカンとした表情をしていた。
それが俺にはおかしくてただただ笑った。感情なんてない無機質な笑い。
その裏に有るのは“期待”や“嫌悪”下らない“殺意”かもしれない。

(本当に下らない)

俺は心底思った。

「………………美味しい?」
「……普通」
男っていうもんは料理っつーのは苦手何じゃないかという考えを前言撤回させるほどの旨さだった。
だが変に『美味い』だの何だのというのは気が引けたが敢えて不味いとは言わなかった。
「普通………ね その割にはガツガツ食べるねぇ…」
「うるせぇ いつもこんくらい食ってんだよ」
「そ」
文句あんのか。こっちは頭痛くて苛々してるって言うのに何だその余裕な顔は昨日酒を浴びるように飲んだのはどこのどいつだ。
「あー ごめんね俺酒強い方なんだよねぇ〜」
くつくつと楽しそうに笑う臨也だったがそれを裏腹に俺はその笑顔に軽く殺意が湧いた。
「シズちゃん…俺の話を聞いてくれるかい?」
「……何だ」
「俺は君が怖いよ だから嫌いなんだ」
「…………」
「だけどね。人間は皆平等であって不平等になる。そして俺は人間を愛してる。だけど君は嫌いだ。君は俺にとっての不平等なんだよ。解るかい??」
「全く」
俺は最後の一口を味わい食器を台所に持っていく。臨也は興が冷めたと言わんばかりに溜め息を漏らしながら朝飯を口へ運んでいた。
「…シズちゃん…この後仕事は?」
「ねぇ」
「ふーん じゃあ一緒にどこかに行こうか?」

ガシャン

自分の手に持っていた食器が音を立てて落ちて割れた。
「…………あ?」
今なんて言った。『どこかに行こうか』だぁ?ざけんな何の冗談だ。
死んでも嫌だ。その前に俺が殺してやろうか。
「ぷっ…アハハ シズちゃん可愛い!! 何固まってんの? 純情すぎ!! …って食器落としてんじゃん…あーあ食器が可哀想…」
臨也はケラケラと笑い出す。
嫌みを混ぜながらも臨也は口に弧を描き子供のように無邪気に笑っていた。
「…食器洗え」
「ハイハイ」
丁度臨也も飯を食べ終えたようで自分が使った食器を重ね台所に持ってくる。
その途中俺が落とした食器の欠片を見てまたニンマリと口元を歪ませた。
「純情すぎ…」
「…ぁあ?」
“殺気”という妙な威圧を漂わせながらプチリという切れる音が自分自身から聞こえた。
俺は食器の欠片を即座に拾い上げ臨也の顔に投げつける。
だが何度投げても臨也に当たらない。臨也は楽しそうにクルクルと回りながら軽やかに飛んでくる欠片を避けた。
「こぉんの クソ虫ぃ!!!!」
一つでも当たって気絶して死ね!!
嫌 こいつの顔を原型留めなく抉って殺すのもいいかもしれない。

「そう 君はそれでいい」

「ぁあ…? …………っ!?」
余計な事を考えている内に臨也は俺の懐まで近づいていた。
俺は瞬時に持っていた欠片で切りつけようとしたがその行為は臨也によって無効となる。
「…………………!! 臨也?」
「…………しようよ…」
臨也は触れた唇を離しせがむように俺の体に抱き付く。体が密着しているせいか小刻みに震えているのが分かった。
「…お前なぁ…ふざけてんじゃねぇぞ誰がお前なんか抱くか」
「………………………じゃあ死んでやる」
「……………は?」
体の腹部に妙なモノが当たる。臨也は自虐的な笑みを浮かべながらそれを俺にちらつかせた。
そう それはナイフだった。
臨也がいつも所持している武器で人を(特に俺を)切りつけたりする道具だと本人は云っている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ