香りにまつわる短編集

□友情的短編
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 なんだか頭痛がする……きっと春樹と喧嘩したせいだな。
 真理は自宅のベッドの上で、なかなか寝付けないままに思考を巡らせる。それは逆に頭の痛みを増長させるだけ。
 真理の偏頭痛は今に始まったことではないが、昼間、同じクラスで一番仲の良い男友達である春樹と言い合いになったことが原因だと思い込んでいる。
 事の発端は些細なこと。春樹に好きな人が出来たのだ。それがたまたま真理と同じ人だっただけ。


「おかしいんじゃないの!?」
「何が?」
 春樹の好きな人の名前を聞いて思わず口をついて出た言葉。
「なんで、よりによって……」
「男なのかって??」
「そうよ!おかしいわ、アンタ」
「だろうな」
 春樹は明らかに悪意のこもった声音で、自嘲気味に言い捨てる。こうなるとお互い止まらなかった。

あーあ。あんなこと言うつもりじゃなかったのに。自分勝手、だよなぁ。
 真理は眠れぬ夜を過ごしながら、春樹と明日どんな顔して会えばいいか、一人頭痛をひどくしていくのだった……


「おはよ」
 悩みの種というものは見事にすぐ発芽するもので。朝家を出てすぐ、ばったりと春樹に出くわしてしまった。
 しかし、春樹は何事もなかったかのように飄々と挨拶してきた。
 真理が何も言えずにいると、少しだけ額に皺を寄せて。はにかみながら春樹は言葉を続けた。
「昨日はごめんな」

 思ってもいなかった、春樹からの謝罪。真理は、え。とだけ声を出してから、慌てて次を紡ぎだす。
「何で!私……」
「いいんだって。あのさ、それより知ってるか?」
 一旦言葉を切り、苦い顔をして真理を見つめる。

「あいつ、彼女いるんだって。俺ら、いらない喧嘩したよな」
「ホントに?」

「お前、これやるよ」
 真理の目の前に差し出されたのは一枚の葉っぱ。
「何これ」
「ミント」

「頭痛にいいんだって」
 そう言って春樹は笑う。
 こうやって真理を気遣って。
 花が綻ぶように、ふわりと真理も春樹に笑いかけた。

 ミントの葉を口にすると、すっきりとした、清涼感のある香りに包まれる。
 今日のこの朝を象徴するような。春樹と真理、この二人のような。

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