誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
1ページ/3ページ

あれから三蔵の車に乗って、久しぶりに自宅へと帰ることになった。



車の中で話したのは、なんと三蔵が離婚していた、ということ。聞いてない、と騒ぐわたしに離婚していなければ堂々と迎えに来たなんて言えねぇだろうが、なんて返されたけどそんなとこまでわたしが先読みしてるわけがないのに、平然の言ってのけてくれるから厄介だ。




「……でも、わたしのせいで、ごめんなさい」

「だから、自意識過剰もいいところだ。てめぇがいようがいまいが、別れることに変わりはねぇんだよ」




もう何年も前からすれ違った生活をしていたのだと、三蔵は言った。そもそも政略結婚みたいなもので、別に別れても立場が悪くなることがない、と相手に伝えたところ、了承されたんだそう。もともと愛のない夫婦だった、と。今は自由にしていて、元奥さんには恋人も早々に出来たそう。そんな風に言わせてしまっている、と落ち込んだのが顔に出たのか、ぽん、と頭を叩かれて二重に否定された。





「お前のせいなら、慰謝料請求やらなんやら、あっただろうが。だからそんなもん、ねぇんだよ」





これ以上気にするなら元奥さんと話してみるか、なんて言われて慌てて納得。強引だけれど、その強引さはわたしを守るためのものだ。本当に貴方はわたしの性格をちゃんと理解していて、それをフォローしてくれる。






「……あの、ありがとう。ごめんなさい」

「謝るべきは勝手に消えたことだ。まったく、手間のかかる」




赤信号で車が止まって、三蔵がこちらを向く。その表情は呆れたような、それでも安堵しているみたいに見えてなんだか心臓が久しぶりにばくばくと動き出したような感覚。見える景色が鮮やかになって、心がほんわかしていくのはきっと気のせいじゃない。





「もう嫌がったって逃がさねぇからな、」

「っ、逃げない、よ、」




揺らぐアメジストに囚われて、キス。ああ、もう。また泣いてしまいそうだ。こんなしあわせって、あっていいんだろうか。大好きな人と一緒にいられるだけで、不安定だと思っていた世界がこんなにもしっかりと形作られてく。


車が動き出して、自宅までもう少し。懐かしい景色に不意に先生方を思い出す。わたしが傷つけてしまった、先生方を。





「……先生たちって、どうしてる?」

「自分の目で確かめるんだな。帰る時に連絡入れておいたからマンションに来るだろう」

「え、」

「捕獲した、ってな」

「……動物みたい、」






くつくつと笑う三蔵を横目にまた違った意味で心臓が跳ねる。どんな顔をして逢えばいいのか、わたしはわからない。





「ちなみに俺のものになったと伝えておいた」

「えー……」

「こういうことは先制しておくに越したことはないからな」





どんな顔をしたらいいんだろう。謝りたいことは沢山あるし、今更どの面下げて、と思われたって仕方ない。怖い、けど、もう逃げたくないのも確かだ。わたしを助けてくれた、大切な人たちから。









次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ