誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
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あなたが泣いてなければ、それでいい、と。


「……、」


夜の帳が下りる頃。携帯を見つめて、1人考える。今日は月命日。この日の彼女はいつも暗くて、傍にいられるようになってからは欠かさず傍にいたけど、最近の彼女の様子を見ているとそう簡単に連絡もできない。

頑張っているように思う。1人で立ち上がろうと。甘やかして、傍にいたいと思うのははたして正しいことなのか。彼女の頑張りを無下にすることではないのか。会いたい、甘やかしてやりたい気持ちと相反する。



「ダメ、ですねえ、僕、」



失うのが怖い、だなんて。
僕の想いは彼女を潰してしまわないか。優先するべきことは決まっているのに、どうしようもなく愛しい気持ちが判断を鈍らせてく。こんなにぐだぐだと考えていることでさえ愚かなことだ。


自重気味に笑って携帯を置く。彼女のために、すべきこと。支えたくて覚悟を決めたはずなのに、今はそれが彼女の足枷になるような気がして。










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