誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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情事後−
名無しさんはベットの中で、そっと三蔵に抱き着いた。
「……本当に珍しいな。お前がそんなに甘えるのは。なんかあったのか?」
「べつに、……何もないよ?」
言えない。
一ヶ月間、会えなくて淋しかったなんて。
それは言ってはイケナイ言葉、だと。
その代わり。
少し、少しでいいから。
このままでいさせて。
「…………、」
抱き着いてくる名無しさんを、抱きかえす権利など、俺にはあるのだろうか。
何もかも中途半端で何も捨てられない俺に。
それでも。
名無しさんを愛している気持ちは本物で。
独占する権利などないのに、独占したいと思ってしまう。
それに悟浄が言った言葉さえ。
『一ヶ月会わない間にどれだけ俺が名無しさんを抱いてると思う?』
あの勝ち誇った笑みは無性に腹が立つ。
もっと会いたい。
毎日でも、会いたい。
けれど。
それは叶わないことなのは自身が1番よくわかっているから。
三蔵は現実を忘れるかのように、名無しさんを強く抱きしめた。
どうか今だけは。
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