誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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「とうとう始まったかー」
「地獄の遠征、」
キラキラ光る太陽。
いつも体育館で練習してるわたしたちからしたら慣れていないそれ。
その光の下、わたしたちはストレッチしていて。
「地獄っていう割には名無しさんはわくわくしてるみたいだけど?」
「大変そうだけど楽しみだから」
ニコリと笑って菜緒に言葉を返す。
わたしたちバレー部は、秋に地獄の遠征という異名を持つ合宿が年に一度ある。
わたしも菜緒も、初めての参加なのでどれほど辛いかちゃんとは知らないけれどその大変さは先輩から聞いていて。
二泊三日の合宿。
今から何が始まるのか。
緊張と楽しみが入り交じって。
「集合ー、まずは砂浜ランニングね」
ニィ先生の声に、全員が砂浜へと下りる。
ニィ先生から紡がれたのは熱血闘魂マンガみたいな言葉。
一瞬瞬きするもやる気はばっちり。
裸足での砂の感覚が、くすぐったくて、どこか懐かしくて。
先輩に続いて走り出す。
絶望がすぐそこまで近付いているのを、わたしは愚かにも気付けないでいたんだ。