誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
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「っ、さんぞ、!っまって、っ!」





車にもたれかかって煙草を吸う三蔵を見つけて、大声を上げる。そんなに大声をあげなくても聞こえそうな距離だけど、どうしようもない想いが溢れてコントロールできなくなる。



振り向いた三蔵は少しだけ驚いた顔をして、それから緩やかに目を細めた。








「っ、三蔵!」

「っ、」






思いっきり、三蔵にダイブ。坂道なのも手伝って、すごい衝撃だっただろうけど三蔵は受け止めてくれた。懐かしい、三蔵の香り。恋い焦がれ思い続けたそれが、こんなに近くにある。







「……お前、危ねぇだろーが、」

「……三蔵なら受け止めてくれると思って」

「そういう問題じゃ、」

「わたしのために、ずっとここに来て手を合わせてくれた三蔵なら、わたしの全てを受け止めてくれるって」

「……今更だな。1年5ヶ月前も、その前も。お前くらいどんなことだって受け止めてやったのに」







ぎゅう、と抱きつけば、抱きしめ返される。馬鹿みたいに飛び込んだそこは、あたたかくて安心できる場所。わたしはいつだって、貴方に守られ愛されてた。








「最初からこうしとけばよかったんだよ」

「……なかなか、難しいんだってば」

「簡単なことだった。俺も迷わせた。すまなかったな」






涙が、頬を伝う。一度手放した大切なぬくもりが今はここにあって、そしてそのぬくもりもわたしを受け入れてくれてる。理屈も、理性ももう働かない。ただただ、貴方が愛しかった。愛しくて、尊くて、誰よりも大切。ただその想いだけが体を動かした。






「……三蔵、だいすき」

「その言葉をずっと待ってたんだ」









伸ばした手が、誰かに包んでもらえること。
壊れた心を、誰かに治してもらえること。


人を愛するという想いが叶うこと。こんなにも、しあわせだということを、今初めて知った。









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