誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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卒業式が終わった。
わたしの楽しくて、苦しく悲しい高校生活は終わりを迎えた。
教室で写真を撮ったりアルバムに寄せ書きしたり。卒業の恒例行事をしながら時を過ごす。
わたしはあの日、三蔵が泊まったあの日から誰とも逢わずにここまで来た。あの日無言でわたしを抱きしめた三蔵に何も返せないまま。たくさん支えてくれたみんなに何も返せないまま。勝手ばかりのわたしを許してなんて言わないからどうかみんなにはそのままでいてほしい、と。
「名無しさんー、写真撮ろ、ってあれ?どこ行ったんだろ」
「さっきまでいたと思ったんだけど、」
1人、教室を静かに去る。名残惜しいけど、ここに残っていたら先生たちときっと別れられなくなってしまうから。
見つかる前に。声をかけられる前に。お礼も言わずにいなくなるなんて礼儀知らずだけどそれでもどうか。
誘惑蜘蛛