誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
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月命日が来てしまった。


頑張って乗り越えてきた1人の夜も、この日ばかりは辛い。これを、乗り越えられれば先に進める気がするのに、油断すれば涙腺が崩壊しそうでどうしようもない。


「うー…だめだめ、」



脳裏に浮かぶ、先生たちの姿。携帯にのびそうになる手を必死で抑えた。



「っ、電源、切っとこう」


電源を落として、目の付かないところに。そうやって乗り越えてしまおう、と、携帯を持った瞬間。


「っ、」


ディスプレイが光って、着信を告げる画面。思わずテーブルに置いたけど、表示された名前を見てしまって、心臓は高鳴るばかり。


数十秒、光って切れた電話。
まだ、心臓は煩いくらいにドキドキとしていた。


「っ、!」


間髪入れずに、チャイムの音。
玄関に向かえば、そこには今しがた電話をくれた人が立っている。




「さんぞ、」


「久しぶりだな」



携帯をポケットにしまいながら近づく三蔵に、涙腺が緩む。ああもう、どうしてわたしはこんなに弱いんだろう。




「誰もいないようだな」


「あ、うん、」



他の3人と違って、三蔵はだいたいいきなりの訪問。それはきっと、時間が空いた時にすぐ来てくれるからだろうけど。連絡をくれれば断ることもできるけど、こうして来てくれれば追い返すほどわたしは強くない。心底嬉しい、なんて心が歓喜していることももう誤魔化しきれない事実。



「あうー…」

「なんだ、それ」


抱き締められて、嬉しいような、困ったような声を出せば呆れたような声が返ってきた。


「…なんでも、ない」

なんにも変わらない三蔵に、これまでの1ヶ月がなかったみたいに思う。けど、それは確かにそこにあって、わたしは少しでも変わったのだと思いたいけれど。啄ばまれるようなキスを落とされて、体が疼く。久しぶりに見たアメジストはやっぱりキレイ。



「何もしてないのに、なんでぐったりしてるんだ」

急に力が抜けて、三蔵にもたれかかれば抱きかかえられて。ソファーに座った三蔵の膝の上に収まる。くるくると髪を弄ばれて、どうしようもなく安堵。




何をするわけでもない、この時間がひどく愛おしくて。いそいそと三蔵に抱き着く。なんだかぎこちない動きになってしまったけど、三蔵がふっと笑ってくれたから良しとしよう。









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