誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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授業中、ボーッと先生を見つめる。
今は国語の時間、八戒先生が教壇に立っていて。
卒業まで数ヶ月をきった授業は、終始スローペースの和やかムード。
爽やかに笑う先生が、まさか離婚した、だなんて誰が気づくだろう。
真剣に、考えなければいけない。
暖かな、ぬるま湯に浸かっていたわたし。
みんなに守られて、甘やかされて。
支えられているばかりではもう、いけないんだ。
授業が、終わる。
ふいに八戒と目が合って。
どきり、とする。
あまりにも穏やかな瞳は、まるで変わらないから。
体が、疼く。
この2年で、わたしの体は随分と変わってしまった。
寂しくなると、熱を求めてしまう。
求めるままに手に入っていた熱は随分とわたしを甘やかしてくれていたのだ。
「桜沢さん、ちょっといいですか?」
「っ、はい、」
今日の授業はこれで終わり。
呼ばれるままに八戒に着いていって。
「大丈夫ですか?」
「え、」
「ボーッとしていたようなので」
「っ、」
「熱い視線を感じたので、触れたくなってしまいましたよ」
廊下の死角。
いつ誰が通ってもおかしくない廊下の陰で、密談。
わたしはそんなに欲求不満だったのか、途端に恥ずかしくなって狼狽えるけど、先生は優しい瞳でわたしを見つめて。
「ゆっくりで、いいですよ」
ふいに落とされた口づけ。
一瞬のそれに、鼓動は早くなって。
もっと、と言いそうになるのを慌てて抑える。
「せんせ、」
「気をつけて帰ってくださいね」
先生の優しい指が、わたしの頬を撫でて離れてく。
残された熱が体を支配して。
「……しっかり、しなきゃ、」
火照る顔に手を当てて冷ます。
もうそれ程、時間は残されていない。