誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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「桜沢ー、おまたせ」
「悟空先生、今日はお願いします」
ある日の放課後。
今日は、わたしが休んでいた間に行われた健康診断をしてもらうため、病院に行く日で。
付き添いとして悟空先生が同行してくれることになっていたので、放課後ひとり、教室に残っていた。
「じゃ、行くか!」
「はい」
いつもながらに満面の笑みを浮かべる先生に、わたしも自然と笑顔になる。
この屈託のなさが、わたしには眩しくて、救われてたんだ。
車で15分程走ったところにある、綜合病院。
そこで、健康診断をしてもらう。
ふたりで自動ドアをくぐれば、病院の、独特な匂いがして。
「っ、」
「桜沢?どうした?」
「いえ、」
ふいに、思い出してしまう。
事故の報せを受けて、向かった病院とココとは全然違うのに。
この匂いは、そこを思い出させて。
それでも、悟空先生に迷惑をかけるわけにはいかなくて、足を進める。
考えたくない、引きずられそうになる思考を、必死に保って。
「オレ、ここの待合で待ってるから」
「はい、いってきます」
先生と別れて、お医者さんの元へ。
ひどくなる頭痛には、気づかないふりをして。