誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
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ベッドから降りて、シャワーを浴びに向かう。


服を脱いで鏡を見れば昨日の痕が残されていて思わず赤面。







「……うう、」






そういう関係に、なってしまった。


わたしはずるい。
彼に奥さんがいることもちゃんと知ってた。
それなのに彼の優しさに付け込んだ。


わたしを甘やかしてくれるその手を、離すことができなかった。
これからどうなるとか、これからどうするべき、とか、まだわからないけど。
(彼のしあわせを壊したらダメだ、)


そこまで依存してしまったらきっと。
わたしは彼の日常を壊してしまう。








鏡から目を逸らして、シャワーを浴びる。


優しさに甘えてばかりではいけない、なんて、もう知ってなければいけない真実だ。













風呂場から出て、ルームウェアに着替えて。
冷蔵庫にあるミネラルウォーターを取りに行く。


「?」





ふと、インターホンの音が響いて、首を傾げる。
そういえば今日は土曜日だ。
かといって菜緒は部活だろうし、先生だろうか。












「悟浄先生、!」


「ハロー、名無しさんチャン」






尋ねて来たのは、悟浄先生で。
昨日の今日だからびっくりしたけどすぐ招き入れた。


理事長からなんのお咎めもないことは聞いていたから、安心していたけど。







「先生、珍しいですね。今日土曜日なのに」


「昨日あんな風に別れたままじゃゆっくり休日も過ごせないからな」


「あ、あの、ごめんなさい、」


「なんで名無しさんが謝るんだか」








くすくすと笑って、悟浄先生がわたしの頭を撫でる。


まったく気にしてないみたいに笑ってくれるからわたしも安堵して。






「お咎め、なくてよかったです」


「ん?知ってたのか」


「理事長に聞きました」





わたしの湿った髪を一房とって、顔をのぞき込む先生。


紅い瞳に囚われて、息が詰まる。
大人の色香のあるひと。


今のわたしには刺激が強過ぎて。










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