誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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「気持ちはどうですか?落ち着いてきました?」
紅茶から立ち上ぼる湯気を見ながら、八戒先生がわたしに問う。
触れても大丈夫か、ゆっくりわたしに合わせて聞いてくれる先生。
あの時より幾分か落ち着いた心、だけど未だ悪夢を見るほど負い目を感じている心にはとても有り難くて。
「……まだ、思い出すとくるしくて、……よく眠れません。けど、皆さんが来てくれると安心します、すごく」
わたしには親戚がいない。
家族4人で生きて来た。
家族がいなくなって、わたしはほんとうに一人になった。
高校生が一人で生きていけるか、なんてわからない。
けど同時に、生きて行かなければならないことだけはわかっていた。
幸い、このマンションは父が亡くなってしまったことでローンは払わなくてよくなる保険に入っていてくれて、家は残り、父と母の保険金が入ったのですぐ高校生をやめなければならないということにはならなかった。
みんなが、生きていてくれれば家がなくたって、学校に行けなくたってよかったのに。
けどこれはきっと、お父さんとお母さんがわたしと弟のためにしていてくれたことだ、まさかこんなにはやく使うことになるとはだれもが思っていなかっただろうけど。
「なんとか、ここでひとりで生きて行ける環境はあります。父と母が、そうしてくれてたから、」
八戒先生に告げると、涙が溢れそうになる。
まだ、思い出しては泣いてしまう日々を繰り返してた。