誘惑蜘蛛 book

□誘惑蜘蛛
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「来てくださって、ありがとうございます」







あれから理事長に、警察からの話を聞いて。


わたしは家に戻って。








しめやかに、葬儀が行われた。










わたしの家族の乗った車は、対向車線を入っていたトラックとぶつかったのだと聞いた。


相手の運転手は居眠りか何かで、大きくはみ出してスピードを落とさずぶつかったそうだ。


相手の方も、大きな怪我をしたそうで今は病院に入院しているそう。









親戚がいないわたしは、すべて自分でやらなければならなかった。


葬儀の手配も、両親、弟の知人への連絡も。
学校の関係も、しなければならなかったのだけど。


そのほとんどを、理事長が手配してくれたのだ。


一人の生徒でしかないわたしに、こんなにも親切にしてくれて。


どんなに助かったことだろう。
哀しみにくれるわたしの頭と体でこれだけのことをこなすのは途方もなく大変なことだったから。
感謝してもしきれない。







葬儀に来てくれたひとに頭を下げる。


その中に見慣れたカラフルな頭が見えて、深々と頭を下げた。



悟浄先生、悟空先生、八戒先生、そして理事長。
みんな来てくれたんだ、と、感謝して。











「理事長、いろいろありがとうございました」


「気にするな」







感謝してもしきれないけど。
感謝を伝えることしかわたしにはできなくて。








「学校には、落ち着いてから来ればいい」


「休んでる間の授業は、後でいくらでも取り戻せますから、気にしないでゆっくりしてくださいね」


「俺らが放課後教えることもできるから、な?」


「桜沢、ムリだけはすんなよ。何かあったら遠慮なく頼っていいから」








先生たちの言葉が、とてもあたたかい。


先生たちが、あたたかい。









「っ、ありがとう、ございます、」









また、溢れそうになる涙を必死に堪えて。


今できる、精一杯の微笑みで返した。












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